ビーチボーイズを聴き始めたのは1985年でした。19歳のわたしは、自動車教習所に通いながら、遅々として取得できない単位にちょっと嫌気がさしてました。
それでも、世の中の空気はITに侵略されたいまと比べるとずっと軽やかでした。携帯やSNSの情報に左右されない社会。時代はバブルに向かってます。大した根拠もないのに、わたしは明るい未来を感じてました。
ビーチボーイズを聴くきっかけを作ったのは、村上春樹の「風の歌を聴け」を読んだことです。山口から上京した大学の友だちが、村上春樹をこよなく愛し、「是非、これを読んでみろよ!」と、言って渡された本です。
価格:1430円
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感想(1件)
「カリフォルニア・ガールズ」のレコードは、まだ僕のレコード棚の片隅にある。夏になるたびに僕はそれをひっぱり出して何度も聴く。そしてカリフォルニアのことを考えながらビールを飲む。
~「風の歌を聴け(村上春樹)」
「さて、どんな曲だろう?」と思いながら、近所のレンタルレコードで「サマー・デイズ」を借り、B面から聴きました。夏をイメージした陽気なポップスですが、どこか切なさを感じるメロディです。
それから、ビーチボーイズの曲をたくさん聞くようになりました。
このとき、わたしは週末は江の島の片瀬西浜でした。ボードセイリング・サークルに所属していたわたしは、免許を取得したあとは、日産のラングレーに乗って日野の実家から、長い時間をかけて、江の島へドライブしました。
カセットテープには好きな曲を詰め込んでました。テープに曲を収録するコツは、終わりの無音状態を無くすことです。ビーチボーイズの曲は、一曲一曲が短いので重宝しました。 「サーフィン・U.S.A.」も「カリフォルニア・ガールズ」も2分ちょっとで終わる曲です。テープの余った中途半端な部分を補うのにちょうどよかったのです。
ただ、サークルの先輩には、ビーチボーイズの曲はあまりウケがよくありませんでした。バンドとして既に「時代おくれ」のイメージがあるのと、そもそも曲調が軽薄、ナンパというのが、本格的なセーリングをしている先輩には、嫌な感じだったと思うのです。
マリンスポーツはナンパなイメージとは裏腹に、気温と風を読みながら、舵をうまくとる真剣なスポーツです。
晴れた夏の午前中は弱いオンショアです。このとき、初級者はウインド・アビームを試すのに最適な条件となります。次第に地表が熱くなる午後は、海風がより強く吹きます。そこは、中級者が楽しいと感じるコンディションです。天気が荒れると、オフショアです。下手をすると、風や波に流されます。命の危険さえ感じます。ボードセイリングは、風向に対して45 度以上の角度で前を進むことは出来ません。
出発点に戻るには、クローズ・ホールドという方法を使って、右左ジグザグに走る技術が必要です。ただこれは、難易度が高く、あまり快適なセイリングではありません。

ビーチボーイズを聴き始めて、少し経った頃、ニューアルバム「ザ・ビーチ・ボーイズ '85」がリリースされました。それまでのビーチボーイズはすべてレコードで聴いてましたが、このアルバムははじめてのCDフォーマットでした。
ベストヒットUSAで、メンバーがインタビューを受ける場面を見て、わたしも期待感を抱きCDを購入しました。「ライブエイド」に出演したときのイメージも、頭に残ってました。ただ、1曲目を飾るシングルカットされた「ゲッチャ・バック」は、シンセサイザーや、エレクトリックなドラムが鳴り響く意欲作だと思いましたが、なにか、物足りなさを感じました。
そこにはブライアン・ウィルソンの姿がないからだと思いました。「天才」と称され、ビーチボーイズの音楽的な中枢であったブライアン・ウィルソンの不在は、確実に、作品全体に影を落としていると思いました。
ブライアン・ウィルソンは、ポピュラー音楽の歴史において極めて大きな影響を与えた人です。わたしは音楽雑誌での知識しかありませんが、ジャンルを超えて多くのアーティストに多大なインスピレーションを与えてきた人物とされてます。
ブライアン・ウィルソンを語るうえで外せないが1966年の「ペット・サウンズ」です。このアルバムは、マルチトラックな録音で、テルミンなどのユニークな楽器を取り入れてます。大滝詠一や山下達郎などの大物アーティストが、このアルバムを絶賛しているのは有名です。
ただ、個人的に「ペット・サウンズ」は、そこまで夢中になれませんでした。たしかに綺麗で、丁寧に作られているのは分かります。けれど、内省的すぎて、聴いているとどんよりした気分になります。このアルバムに「グッド・バイブレーション」があればいいのに・・・「グッド・バイブレーション」の持つパワーを「ペット・サウンズ」には感じません。
わたしは、ビーチボーイズに「神のみぞ知る」のような祈りを求めていないんだと思います。もっと陽気で、もっと空っぽで、もっと楽しい音楽に惹かれるのです。
ビーチボーイズの曲はたくさん聴きましたが、生のライブで観たことはありません。
そして、ブライアン・ウイルソンは亡くなってしまいました。
この夏は何回、ビーチボーイズを聴くのだろう。