【信頼を獲得するのは、何年もかかるけど、信頼が壊れるのは一瞬 - 叡智の三猿】のつづきです。
所属事務所からの独立と商標権
SNSの投稿を読むと、Apinkのファンは契約更新にあたって所属事務所からの独立を願っているような節が読み取れました。
実際にそんなことが可能なのか?というと、可能だとは思います。
わたしが好きなK-POPグループで、BEASTがその例です。BEASTは2009年にCUBEエンターテインメントからデビューした男性アイドルグループです。リーダーのユン・ドゥジュンは、歌手活動だけでなく、役者としても人気シリーズの「ゴハン行こうよ」をはじめとして多くの出演作があります。韓国ドラマファンにとっても馴染みある顔です。
2016年にBEASTのメンバーは、CUBEエンターテインメントとの専属契約を終了して個人事務所として独立します。そして、同じメンバーで HIGHLIGHT という名義で歌手活動を再開しています。
商標権(下記)の問題があるので BEAST の名前を引き継ぐことはできません。
商標は、事業者が取り扱う商品やサービスを他社のものと区別するために使用するマークを指します。このような、商品やサービスに付ける「マーク」や「ネーミング」を財産として守るのが「商標権」という知的財産権です。
最近読んだ、インタビュー記事でユン・ドゥジュンはこう語っています。
Q:ドゥジュンさんにとって譲れないもの、曲げられないものは?
A:それはもう、HIGHLIGHTです。HIGHLIGHTは、僕のホームみたいな存在だから。責任も感じますが、それも含めて楽しくてたまりません。BEAST時代ほどの人気じゃないとしても、今のメンバー、今のグループ活動が大好きです。HIGHLIGHTは僕の家、僕の原動力です。
~「もっと知りたい韓国ドラマvol110/メディアボーイ」
HIGHLIGHTは、分離独立しても充実感を持って活動していることが記事から読み取れます。
アイデンティティとブランド
しかし、Apink は BEAST のように事務所から分離する道は選びませんでした。チョン・ウンジだけ、事務所との契約を更新することで、Apink の名前を残して活動を継続する方法をとりました。
そこで気になるのは、Apink というグループ名にどれだけの価値があるか!?です。事務所から別れても、グループの名前を変えれば、同じメンバーで歌手活動ができると思うからです。
チョン・ウンジは Weverse という韓国企業が運営するアーティストとファンとのコミュニティプラットフォーム(最近、AKB48がこのプラットフォームに参画して話題になってます)を通じて、ファンにこうメッセージを送ってます。
機械翻訳すると「ペンライトはアイデンティティだ」だそうです。
PANDAと呼ばれる Apink のファンは、コンサート会場でペンライトを持って応援します。チョン・ウンジはそれを「アイデンティティ」と表現しました。
アイデンティティとは、自分の存在を証明する概念で、自己を表現することです。かなり抽象的です。
ファンは専用のペンライトを持って応援することで、自分の存在を グループ のメンバーに伝えていると解釈しました。
グループ の名前は、ロゴマークに象徴される商標の意味を超え、ファンの心にあるブランドイメージだと表現したんだと思います。
ビジネス上、商標とブランドは同じ意味で使われることが多いのですが、違う解釈をした方がいいと思います。
商標を作るのは企業側ですが、ブランドはファンの心の中にあります。
「推し」の存在
アイドルのコンサートでは、歌に合わせてペンライトを振りながら、決まったフレーズを叫ぶ光景は当たり前です。
ただ、わたしは Apink のファンですが、ペンライトを振って応援したいとは思いません。楽曲が好きなので、CDを買っているし、YouTubeの動画も観ていますが、特別にペンライトを振って応援したいとは思いません。
認知科学では、身体を使って応援することで、相手との一体化が生じ、それを快楽と感じるメカニズムがあることが実証されています。そのような人は、快楽を求めてさらに応援を繰り返し、アイドルの沼にハマるようです。
わたしのような受け身の姿勢で、楽曲を鑑賞するファンと、より積極的にアイドルと関わって応援するファンがいます。俗にいう「推し」とは、後者のファンです。ファンの集合体のなかに、よりコアな「推し」の層がいると解釈すればいいと思います。
「推し」は、単にアイドルを応援するだけでありません。自らが「推し」のアイドルを SNSやYouTube を使って、広く伝えようとします。たとえば、ライブの映像を切り抜き、そこに独自のテロップや、アイコンをいれたりと、情報を付加してアイドルの魅力を伝えようとする行為です。
そんな「推し」の行動がファン層を広げるのに大きな役割を果たしていることは容易に想像できます。
ブランド名を変えると、ずっと「推し」が担ってきた行為とコンテンツが、過去の遺物となり、ゼロクリアになります。
だから、ブランド名を変える決断は難しかったのかもしれません。
【新しい文化の創造と共鳴によるライフスタイルの広がり - 叡智の三猿】 へつづきます。