叡智の三猿

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新しい文化の創造と共鳴によるライフスタイルの広がり

ブランドは心のなかのアイデンティティ - 叡智の三猿】のつづきです。


今週は、Apinkの契約更新を題材として、そこから思うことを書きました。

わたしのなかの結論(現時点でのです!)としては、契約更新は「三方よし」だと思います。

更新内容は下図のように、12年間一緒の事務所で活動してきたメンバーのうちひとりを残して契約は終了し、終了したメンバーは新たな事務所と契約したという内容です。ただし、双方の事務所は相互協力をすることで、Apinkとしての活動は継続するとしてます。ですので、Apinkのブランドは継承されます。

では、なにが「三方よし」かについて、書いてみます。三方よしとは「売り手よし、買い手よし、世間よし」のことです。ここでの「売り手」は、ISTエンターテインメントで、「買い手」は、CHOI CREATIVE LAB です。

リスクコントロールによる「選択と集中」

売り手である、ISTエンターテインメントの抱える経営課題は、経営を支えるリソースに不備があることから、メンバーのマネジメントが果たせていないことと考えます(ソン・ナウンの離脱は、課題が顕在化した例です)。会社としては「選択と集中」をはかることで、Apinkメンバー全員でなく、稼ぎ頭のチョン・ウンジにマネジメントを集中しようと考えたと思います。

ただし、多くのファンに支えられている Apink は解散でなく、継続を前提としなければなりません。そのため、チョン・ウンジ以外のメンバーをマネジメントできる会社が必要です。

そこで CHOI CREATIVE LAB という会社に白羽の矢がたち、メンバーの大半をその会社に移籍させた格好になります。

これは、マネジメントの不備により発生するリスクを「移転」という手段を使って、コントロールしたことになります。

リスクコントロールは、リスクが現実にならないようリスクの発生を防止したり、発生しても被害を最小限に抑えるための対応策を指します。具体的には以下の策があります。

  • リスク低減:発生頻度や影響度を下げるための対策を講じること。
  • リスク回避:発生要因そのものを排除すること。
  • リスク移転:リスクを他者(社)に転嫁すること。
  • リスク保有:特段の対策を実施せず、現状のリスクを受け入れること。

「売り手としてのよし」は、リスクコントロールによる「選択と集中」を実現できたことだと思います。

ビジネス成功の鍵は「タイミング」

買い手である、CHOI CREATIVE LAB の情報は非常に少なく、本当にこの会社がメンバーのマネジメントを担えるかは未知です。

それもそのはずです。CHOI CREATIVE LAB という会社は、K-POPのタレントをいままで抱えていません。Apinkのメンバーの受入を契機として、K-POPへの進出をはかっている状況です。いろいろと検索して分かっているのは次のことです。

  • アニメキャラクターライセンス専門会社で、韓国のアニメーションの発展に尽力してきた。
  • 代表は韓国の大手の玩具メーカー(ソノコン)の創業者である。
  • K-POPに進出するため、アイドルのプロデュースとマネージメントを担当する実績ある総合ディレクターを採用した。

アニメの業界から、K-POP業界へと異業種への進出です。異業種進出は、当然リスクがつきものです。そのリスクをできるだけ抑える観点で、Apinkのメンバーを受け入れるのは、理にかなっています。

なぜなら、グループ自体が安定的な人気を持ち、個々のメンバーにも多くのフォロワーがいます。Apinkをウィキペディアで見ると、よく分かるのですが、Apinkのメンバーはグループだけでなく、メンバー全員が個人の日本語解説ページも掲載されています。有名なアイドルグループは多数ありますが、個々のメンバー全員に解説ページが掲載されているグループは稀です。

ビジネスの成功はタイミングが重要といわれます。「買い手としてのよし」は、異業種に進出する絶好のタイミングをつかんだことだと思います。

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新しい文化の創造に寄与する

取引における「三方よし」を考えるうえで、もっとも難易度が高いと思うのが「世間よし」です。

世間というのは、社会全体ということで概念が広すぎます。当然ですが、Apinkのファンだけが活動の継続を喜んでも「世間よし」とはなりません。

「世間よし」とは何かを考えた際、契約更新が及ぼす文化的な影響を考えました。

その鍵は、CHOI CREATIVE LAB という会社が、元々アニメ文化に寄与していたことです。そこから、K-POPに進出しようとする背景です。

アニメやアイドルは、典型的なサブカルチャーです。「オタク文化」呼ばれ、日本も韓国でも、その文化は定着しています。

ただ、アニメは二次元の世界で表現されますが、アイドルは三次元です。次元が異なるためか、両者は同じ文化に属しているものの、消費者の行動特性は違うと思います。

アイドルについては、前の記事(ブランドは心のなかのアイデンティティ - 叡智の三猿)でも書きましたが、コンサート会場でペンライトを振りかざしたり、決まったかけ声を叫んだり、アイドルのサイン会、握手会に参加するなど、ファンは自らの身体をつかって、アイドルと行動を一体化しようとします。

一方、アニメ推しは、好きなコミックを読みながら、そこに現れる登場人物の関係性を妄想するイメージがあります。アニメの情報を視覚的に受け取るだけではありません。アニメに描かれていない部分を妄想によって補い、自分のなかに新たな作品を創造する文化があると思います。ボーイズラブを好む「腐女子」などは典型です。

身体で表現する、アイドル推しと、頭で表現する、アニメ推しという消費者行動の違いがありそうです。

いま、2次元と3次元の間ーーー「2.5次元」と呼ばれる文化の拡大が見込まれています(下記)。これは、二次元のアニメの実写化(ミュージカルなど)であったり、アイドルが現実空間での活動と、アバターを持ってメタバース空間を併用する動きなどです。

2.5次元ミュージカル市場規模とタイトル数の推移(ぴあ総研の資料より)

今後、2.5次元の文化を更なる発展に導くには、アニメとアイドルの消費者の行動特性をより分析することが必要だと思います。なぜなら、2.5次元の消費者は、アニメ推しとアイドル推しの部分集合だと思うからです。

わたしの世代が古いので、例も古くなってしまうのですが、宝塚歌劇団のミュージカルで、有名な「ベルサイユのばら」は、池田理代子の漫画(下記)が原作です。「ベルサイユのばら」は多くの観客を動員したミュージカルですが、観客の多くは原作漫画のファンでもあります。

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感想(35件)

いままで、アニメ業界に携わってきた会社が、アイドル業界に進出する背景は、両者の顧客データを収集・分析し、得られた結果をビジネスモデルに適用したい思惑があると考えます。顧客データは個人情報ですので、事業が異なる複数の会社で共有するのは、法的にも問題です。ひとつの会社のなかで、アニメとアイドルの事業を併用することで、双方の顧客データの有効活用が可能だと思います。

顧客データの分析は、仮設と検証に基づく方法と自動化による予測が考えられます。これらはデータマイニングと総称されます。AIの基盤であるニューラルネットワークの活用をはじめ、クラスタリングによるセグメンテーションの分割や、ライブや関連グッズの消費行動を時系列から相関関係を分析するなどです。

2.5次元という、新しい文化に共鳴する人が増えれば、ライフスタイルの選択肢が広がります。そこに新たな職業も生まれるでしょう。

そんな新しい文化の発展に影響する取引は、「世間よし」だと思います。