CSR(企業の社会的責任)という言葉が、社会に浸透したのは2000年代の半ばくらいからです。
当時、先進的な大手企業はこぞってCSR部門を設置しました。わたしは某企業のCSR部門と半年間契約しました。そこで、会社が営利として行っている事業活動と、CSRの一環として行っている活動を分離し、CSRとしての物流から会計に至るシステムの要件定義と基本設計に携わりました。
仕事を通じてCSRに興味を覚えました。経済発展と環境保全を両立させた「持続可能な社会」って、どんなんだろう!?と勉強し、エコ検定(環境社会検定試験)を取得しました。
CSRのルーツは、江戸時代の近江商人の経営理念にあるとされます。
「商売は菩薩の業、商売道の尊さは、売り買い何れをも益し、世の不足をうずめ、御仏の心にかなうもの」
近江商人の理念は「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」という表現で知られます。
ただ、実際のビジネスで「三方よし」な取引はあまり見ないと思います。みんなハッピーという取引は確かに理想です。ただ、現実のビジネスは勝ちと負けに分かれる泥臭い勝負のようです。
GWに入る直前、休みの間は、日々のIT業務から離れ、久しぶりに「みんながハッピーになるビジネスって何かな?」ってことを考えてみようと、思ってました。
そんなとき、わたし的に驚くニュースが目に飛び込びました(4/28)。
Apinkは、K-POPのガールズグループです。
ただ、このブログを読んで頂いている多くの方は、ApinkというK-POPのガールズグループを知らず、ましてApinkの契約更新があったこと自体、知らないと思います。
なので簡単に図で示します。要は、12年間一緒の事務所で活動してきたメンバーのうちひとりを残して契約は終了し、終了したメンバーは新たな事務所と契約する内容です。ただし、双方の事務所は相互協力をすることで、Apinkとしての活動は継続するとしてます。
毎日、Apinkの曲を聴いているわたしにとって、これは衝撃の出来事でした。
これって、事実上の解散??
わたしは落ち込みました。このショックは、時間の経過で解消するしかないと思いました・・・。
しかし、よくよく考えると、、もしかしたらこの契約更新は、いまの会社の抱える課題を解決し、ファンにとっても、メンバーにとっても、ひいては社会にとってもいい方向に向かう可能性があると思いました。
まさに、近江商人の「三方よし!!」
もちろん、本当に「三方よし」かは、今後のなりゆき次第なので、なんとも言えません。
そこで、今年のGWは、わたしが契約更新を「三方よし」と、なぜ思ったか整理したいと書き綴りました。
長文なので、今日から数回に分けて発信します。
Apink は結成から12年が経過したいまも人気あるガールズグループです。
だから、わたしはてっきり、5月以降もいまの所属事務所と全員が契約更新すると思ってました。
しかし、実際はチョン・ウンジを除いて、メンバーの契約は終了です。
こう会社が判断した理由は、勝手なわたしの想像(妄想?)ですが、3つあると考えました。
- チョン・ウンジとほかのメンバーの仕事量の格差が大きい
- チョン・ウンジの仕事の優先順位をつけなければならない
- チョン・ウンジのファンとApinkのファンは必ずしも一致しない
ひとつづつ、書きます。
チョン・ウンジとほかのメンバーの仕事量の格差
チョン・ウンジの日本での知名度はそれほど高いと思いませんが、韓国ではとても有名なタレントです。
昨年、韓国のYouTubeで検索されたK-POPの女性アイドルTOP50 のなかで、チョン・ウンジは24位にランクインしています。Apinkのメンバーでランクインしている人は他にはいません。それだけ個人人気が高い証拠です。
チョン・ウンジは Apink のメインボーカリストとしての顔のほか、ソロ歌手(歌唱力抜群)としても活躍しています。また、役者としては有名な「応答せよ1997」で主演を務めたほか、2021年は「酒飲みな都会の女たち」の主演(イ・ソンビン、ハン・ソンファと共に)が、話題となりました。このドラマは、2022年にシーズン2が発表されました。また、2022年は9本のCFに出演しています。
韓国内では相当に馴染みのある顔だと思います。
チョン・ウンジ以外の Apink メンバーも、もちろん個々の活動をしています。ただ、チョン・ウンジほど目立ってはいないと思います。
Apinkのような成功をおさめたアイドルも、ずっとアイドル活動をしていくのは難しいでしょう。年齢とともに、アイドル以外の新たな道を見つける必要があります。ただ、幼いときから、アイドルで成功した人が次に何ができるかを考えたとき、方向性を出すのはそう簡単ではないと思います。
K-POP界は、アイドルをデビュー年にあわせて、世代でグループ化してます。いまは、第4世代です。アイドルからすると、自分の属する世代を世間が勝手に決めつけます。年齢がたつと、古い世代に移動し、まるで世代交代を促されているように感じるかもしれません。
アイドルを目指す人にとっても、アイドルを「推す人」にとっても、それはあまりいい状況とは思いません。
アイドルを育てる会社は、若手のアイドルをプロモーションするだけでなく、アイドルのその後についても責任を果たすべきだと思います。これは、K-POPに限ったことでなく、日本の芸能プロダクションも同じです。
アイドルから話が飛びますが、わたしの属するIT業界も、類似する課題があります。特に客先常駐(SES)型のビジネスについてですが、若手のエンジニアを要求するクライアントが多くいます。若手だとクライアントが命令しやいからです。ただ、それが当たり前になると、技術力を持ったベテランエンジニアは、スキルがあるにも関わらず、ただ年齢を重ねているという理由だけで、仕事の幅が狭くなります。
若い時に消費させて、終息させるのではなく、持続可能な働き方を提供する基礎を作ることが必要だと思います。
チョン・ウンジの仕事の優先順位
チョン・ウンジは多方面に活躍しています。会社にとっての稼ぎ頭だと思います。ですので、チョン・ウンジの契約は、継続ありきと考えます。
一方、チョン・ウンジの仕事をマネジメントする会社の役割として、やや過剰気味な仕事量を整理する必要があると思います。仕事の優先順位をつける必要を感じたと思います。
多くのK-POPアイドルは、役者への転身を模索します。アイドルに比べて役者は年齢の制限が低いからです。既に役者として評価されてるチョン・ウンジの仕事の第一優先は、役者だと会社は考えたはずです。
問題は歌手としてのチョン・ウンジの仕事です。歌手活動は、Apinkに軸足を置くのか、ソロに軸足を置くのかで契約形態が変わったと思います。
直近の発売アルバムの売上実績を見ます。
Apinkとしては 4/5 に「SELF」というアルバムをリリースしました。gaon chartで調べると、このアルバムの発売週の売上順位は、5位(37,772枚)でした。また、ウンジのソロとしては昨年の 11/11 に「log」というアルバムをリリースしました(下図)。ここはいきさつがあります。本来は1週前にアルバムを販売するはずだったのですが、10/29 に発生した梨泰院(イテウォン)の圧死事故による死亡者と負傷者、遺族を追悼するため、アルバムの発売日を延期してます。gaon chartで調べると、このアルバムの発売週の売上順位は、11位(15,080枚)でした。
この結果を見ると、ソロ活動よりApinkとしての活動の方が売上が優秀です。であれば、Apinkの活動に軸足を置くのがいいと思うのですが、実際はソロ活動に軸足を置いた更新(チョン・ウンジ以外のメンバーは契約を終了した)をしています。
これは、契約更新にあたって、会社は売上より、ROI(費用対効果)を重視したからだと思います。
- ROI 値=利益÷投資額(マーケティングなどの投資額)×100
売上は利益に関係しますが、必ずしも連動しません。経営判断で重要なのは、売上から費用を引いた利益であり、さらに利益を投資で割った ROI 値です。
利益が多少少なくとも、投資額(分母)が少なければ、ROI は向上します。おそらく、チョン・ウンジのソロ活動は、Apink の活動に比べて、投資額がかなり低いと想像します。
ROI から判断し、会社は歌手としてのチョン・ウンジの活動をグループよりソロに置こうと考えたと思います。
ただし、Apink の売上は優秀(直近のアルバムの売上は過去最高のようです)なので、会社がグループを解散するという判断をすることは想定できません。解散があるとすればメンバーの意思だと思いますが、日ごろの発言を聞いてると、そんな意思は微塵も感じません。
会社は Apink をどのようにしてよりよい方向で継続させるかを模索したと思います。
チョン・ウンジのファンとApinkのファン
歌手、チョン・ウンジの軸足をApinkではなく、ソロに置いた場合、もしかしたら Apinkのファンは離れる方向に向かうかもしれません。
もし、チョン・ウンジのファンと、Apinkのファンが同じマーケティング・セグメンテーション(下記)に位置したら、Apinkファンの離脱は深刻です。それは、会社がチョン・ウンジと契約を継続するうえでの障害となります。
市場にいる不特定多数の顧客をさまざまな切り口で分類し、特定の属性ごとにグループ(セグメント)を作ることです。
しかし、チョン・ウンジは多方面で活躍しています。必ずしも Apink のファン層と、チョン・ウンジのファン層は一致しないと言われてます。特に2021年に主演した「酒飲みな都会の女たち」では、カン・ジグというキャラクターが視聴者の共感を呼び、新たなファン層を獲得したとされています。
「Apinkのファンではないが、チョン・ウンジのファン」というセグメントが大きければ大きいほど、会社はチョン・ウンジのソロ活動を中心としたビジネスに集中投資する方にメリットがあると考えるはずです。
トータルで会社の経営戦略を見ると、会社は「選択と集中」というビジネスの整理を行うことで、会社の経営効率を改善しようとしているように見えます。一般的に会社が「選択と集中」を行うのは、事業を推進するのに必要な経営資源(人、物、金、情報)が確保できないからです。
「選択と集中」・・・この言葉は、会社経営のお題目のようによく唱えられます。
でも単なる「選択と集中」では、「三方よし」は実現しません。なぜなら、そこに関わる「人々」の想いや、「社会」の影響を無視していると思うからです。
今回は、メンバーの契約更新に関する会社の意思決定プロセスをわたしの勝手な妄想で書いてみたのですが、ファンとしてより知りたいのは、チョン・ウンジがソロとしてどんな活動をしたいかです。
5/5 にチョン・ウンジは個人のYouTubeチャネルで動画をアップしました。これは契約更新後、目にする初の動画です。log に収録された「白ヒゲクジラ」という楽曲を手話で表現しています。
この動画を見ると、ウンジがアーティストとして、やりたいと思っていることが、感覚的に伝わってくるようです。
【信頼を獲得するのは、何年もかかるけど、信頼が壊れるのは一瞬 - 叡智の三猿】 へつづきます。