叡智の三猿

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スタートレックの転送装置

Netflixは韓流ドラマを見る目的で契約をしています。が、韓流ドラマだけでなく、むかし見た傑作ドラマが、Netflixに埋もれているのを発見して喜ぶことがあります。

たとえばスタートレックです。スタートレックは長く愛されたシリーズ物なので、いろいろな作品群がありますが、わたしの中のスタートレックは中学時代に深夜番組として観た「宇宙大作戦」を指します。

SF作品ですが、スターウォーズのような、派手でスリリングな戦闘シーンはありません。物語の多くは、U.S.S.エンタープライズという宇宙船のなかで交わされる乗組員の会話と、未知の生命体との交流です。乗組員は、男女、白人、黒人、東洋人と様々です。ドラマ全体にさまざまな価値観の違いと、多様性への理解が繰り広げられます。

いまは、SDGs(持続可能な開発目標)にて「2030年までに、年齢、性別、障がい、人種、民族、生まれ、宗教、経済状態などにかかわらず、すべての人が、能力を高め、社会的、経済的、政治的に取り残されないようにすすめる。」という目標を掲げるようになっています。

しかし、スタートレックが制作された1960年代は世界中に不平等が蔓延している時代です。この時代に於いて、価値観の多様性を認めることはとても画期的なことだと思います。

ところで、物語のほぼ全話で登場するのが、転送装置です。転送装置は、転送対象となる生物を量子レベルに分解し「転送ビーム」に乗せてエネルギー波として運び、目的地で再生するものです。

転送装置

スタートレックでいちばんハラハラしたのが、この転送シーンでした。子ども心に「こんな危険な移動手段を使って大丈夫なのか!?」と、怖さを感じたのです。

未来はこんなことが可能になるのでしょうか!?

わたしの科学の知識ではたいした予測はできないのですが、もし「生物=量子」と仮定したら可能かもしれないなと思います。

量子とは原子よりもさらに小さい電子や陽子などを指します。生物の構成要素となる生体高分子は量子よりもはるかに大きな物質です。「生物=量子」の仮定は無理があります。ただ、高分子をどんどん細分化したら量子にいきつくので、生物は量子の集合体ともいえます。

原子より大きな世界と小さな世界では、物理学の根幹が異なります。物理ではこれを「マクロの法則」と「ミクロの法則」として区別しています。

「ミクロの法則」に従う量子は、粒と波の性質をあわせ持った物質やエネルギーです。

「粒と波の性質をあわせ持つ」という意味は理解しにくいと思います。

そもそも、粒と波って比較対象なの?粒は目に見える物質で、波は現象なんじゃないの?

マクロの法則に従って生活をするわたし達は、こんな疑問を持つかもしれません。

しかし、ミクロでは粒と波は同じ土俵で比較されます。

量子のひとつである光(光子)を想像してみましょう。

光は海や音の現象と同じ波なのか、フリスクをすごーく小さくしたような粒なのか・・・結構、悩ましいのではないでしょうか!?

光は音と同じく干渉という波の性質があります。シャボン玉がキラキラと光り色が付けられるのは、光の干渉によるものです。

シャボン玉

干渉とは

  • 二つ以上の同一種の波動が同一点で合ったとき、重なって互いに強めうか弱めあう現象です。

波と考えられていた光ですが、光電効果という現象に対して粒子の性質があることを見出したのがアインシュタインです。

光電効果とは

  • 紫外線などの波長の短い電磁波を金属の表面にあてると、金属表面から電子が飛び出す現象です。金属には自由電子という原子内に束縛されない自由に動き回る電子が存在しています。

量子は粒であり波の性質があります。ですので、ひとつの量子がこんな感じで波のように広がっていることをイメージします(波動関数といいます)。
波動関数
このとき、量子がどの場所で発見されるか・・・A地点、B地点、C地点・・というのは、確率によって示されます。波の高さや深さの二乗がその場所における電子の発生確率に比例します。仮にA地点で量子が発見される確率が5%とします。B地点とC地点は絶対値で見るとA地点の高さの2倍です。その為、発見する確率は2倍の2乗ですので4倍です。B地点、C地点での発見確率はそれぞれ20%となります。

ひとつの量子が波のように広がっているとき、わたし達はそれを発見することは出来ません。これを「重ね合わせ」の状態といいます。A地点にいる状態、B地点にいる状態、C地点にいる状態が重なりあっていると考えます。そして量子を発見したとき、その波は収縮します。例えばB地点で発見したら、そこに収縮するのです。なぜなら、B地点で量子が発見されたときは、100%の確率でB地点に量子があり、ほかの地点に存在する確率は0%だからです。

なお「重ね合わせ」は、いまホットに実用化を進めている「量子コンピュータ」の肝の部分です。いまのコンピュータは「0」「1」の二進数で処理をしています。量子コンピュータは「重ね合わせ」の原理を用いることで、「0」と「1」が重ね合わせた無数にある状態のそれぞれに情報を持たせることで、一度に大量の並行処理を可能にするものです。

転送装置は量子レベルで考えると地点の移動は可能に思えます。但し、到達するべき地点は確率によって決まるので、精度は保証できそうにありません。U.S.S.エンタープライズがカークの指揮下で5年間の深宇宙調査を行うのは、2264年 から 2269年です。いまから240年後には、精度の高い転送装置が完成しても不思議ではありません。

ただ、あくまでもミクロの世界で可能かもしれないというだけです。スタートレックに登場する転送装置は、転送元で生物から生体高分子、更に量子に分解します。そして、転送先で、量子から生体高分子、そして生物へと再結合します。

これを実現するのはかなり敷居が高いように思います。

何故なら、生体高分子の代表であるタンパク質は複数のアミノ酸が重合してできた高分子化合物です。アミノ酸は体内で皮膚、筋肉、骨、臓器、血液などさまざまな場面で使われます。そして、アミノ酸の使われ方は、個体差があります。お肌ぷるぷるの人と、筋肉もりもりの人はアミノ酸の使われ方が違います。

タンパク質・ペプチド・アミノ酸

転送元と転送先で同じ生物として復元するには、アミノ酸が同じ使われ方をする必要がありますが、それをどのようにして担保するかが転送装置の仕組みでは見えてこないのです。

ですので、わたしの想像するU.S.S.エンタープライズの転送装置はこんな動きをします。

転送装置に入った人は量子化され、行き場所が保証されない転送先で、元の人とは似ても似つかない有機物として再生される。

これは絶対に入りたくない装置ですね・・・。

進化した量子コンピュータによる大量の情報が高速処理されることで、いつの日か完全な装置が実現するものなのでしょうか!?