叡智の三猿

森羅万象を情報セキュリティマネジメントで捉える

心と心が出逢った季節は、ah-面白かった

先月「LOVE LOVE あいしてる 最終回・吉田拓郎卒業SP」を観て、やっぱり買うことにしました。

近所のCDショップは、吉田拓郎の特設コーナーがありました。

買ったのはラストアルバム「ah-面白かった(全9曲)」です。CDのみのバージョンと、CD+DVDバージョンがあり、DVD付きを買いました。実はCDのみバージョンには、クレジットされていない10曲目があることは、後から知りました(ちょっと後悔かも・・・)。

各曲目に吉田拓郎自身によるライナーノーツが掲載されています。ライナーノーツは、通常、アーティスト本人ではなく音楽ライターなどによって執筆されるので、このアルバムが拓郎にとって特に意味深い産物であることがうかがえます。

一曲一曲は短く、非常に聞きやすいフォーク調です。吉田拓郎の歌は日常生活で思ったことを綴るようなカタチで、やや字余りな歌詞が特徴です。本人が思っていることをあるがままに歌うので、音楽が直球で胸に響くのです。

若いころの拓郎の言葉は、「人間なんてラララ ラララララ~」と、大仰な世界観を提示したり、「だから明日に向って走れ こぶしを握りしめて~」と、若者を鼓舞するような強いメッセージがありました。

しかし、このアルバムでは、トゲトゲしたところがなくなり、すっかり人柄が円熟した76歳の拓郎を表現しています。

愛はこの世にありました
形を変えながら風に吹かれて
心と心が出逢った季節は
ah-面白かった
~「ah-面白かった」

拓郎の歌を聴きながら、自分の若いころへと思いが飛びました。

2000年、35歳のわたしは、ITエンジニアとして精神的にも肉体的にもハードな仕事をこなしてきたと思います。

IT業界では「ソリューション」という言葉をよく使います。

ソリューションとは、会社が抱える経営課題や個別業務の問題をITの活用によって解決することを示します。

会社の抱えている課題は多種多様です。

  • 販売促進による売上のアップを実現したい。
  • 顧客満足度を向上させ、囲い込みを行いたい。
  • 競合他社に勝つための決定打となるプロダクトを開発したい。
  • 部門間の情報を共有化し、全社一丸となって課題を解決したい。
  • 社員の能力に見合った適材適所の配置をしたい。

このような雑多にある課題をITで解決するのがソリューションです。

わたしは主としてSCM(サプライチェーンマネジメント)の領域を手掛けていました。SCMとは、部品・原材料の調達から最終消費者に渡る製品の供給までの、モノの流れ、情報の流れ、お金の流れを全体最適化の視点でコントロールすることです。

当時は製造業を中心にSCMの導入がブームでIT革命の象徴でした。SCMのパッケージツールも注目され、i2 、SAP APO、Manugistics、など外資系の製品を選択する会社が多数でした。いまは国産のパッケージもたくさんありますが、あの頃は外資系のパッケージを選択することが、会社の格をあげるような雰囲気がありました。

SCMの実現は、取引関係にある会社間での情報連携を行い、関係するすべての会社が、Win-Winになるという夢のようなシナリオです。それは、実現困難な命題ですが、わたしは、業務担当者やその上長に、SCMソリューションの提案に参画し、導入を手掛けてきました。

システムの導入は困難を極め、出張先のホテルに戻るのは、午前様がほとんどでした。それでも続けられたのは、やはり体力があったんだと思います。

2000年代のSCM導入ブームは、中途半端に終わっています。外資系のパッケージは、製品の設計思想が欧米流で、日本のエンジニアが機能を理解するのが難しいのです。そもそも製品マニュアルが英語なので、いまのような自動翻訳が使えないあの頃は、英語を強みとしないITエンジニアが辞書を片手に翻訳して、機能を理解していました。

また、製品としてリリースされていても、実は試作段階的なレベルであることも災いしました。SCMは大量のマスタデータや取引データの管理を必要としますが、データ量が増えると、システムが動かなくなってしまう事態が相次ぎました。

この状況は、日経コンピュータの「動かないコンピュータ」として、特集記事が組まれるほどでした。

いまは、ビッグデータとAIの活用により、再び、SCMの導入が注目されています。コンピュータの性能は20年前より飛躍的に向上しています。

しかし、SCMが失敗する本質はITの問題ではありません。かって、感じていないことをいまは感じます。

SCMは業務の課題を解決するため、元々、利害関係にある会社間や部門間での情報連携が必須です。SCMを実現する前提は、利害関係にある会社や部門がお互いを信頼していることです。

吉田拓郎は「あるがままに生きること」を歌います。みんながあるがままに生きれば、もっと人と人はお互いを知ることができ、信頼関係も深まると思います。

しかし、個人と個人の関係でも、お互いが信頼しあうのは難しいでしょう。まして、会社と会社、部門と部門では、信頼するなんて想像できません。重要な情報は組織の中で隠蔽するので、そこで築く信頼関係は表面的です。ちょっとした逆風で、崩れるような脆い信頼関係です。

SCMはそもそも実現できないことを実現しようとしているのではないか。

吉田拓郎の歌を聴くと、その源流でもあるボブ・ディランに思いがいきます。ディランの歌について考えたくなりました。