叡智の三猿

〜森羅万象を情報セキュリティで捉える

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日本企業の人事部は、それほど閉鎖的ではありません

雇用の流動化により、人材が企業間を移動することで産業が発展し、雇用市場の活性化につながると期待されています。

典型的な日本企業の雇用形態は、メンバーシップ型雇用といわれます。これは、年功序列、終身雇用を前提とした雇用形態です。しかし、メンバーシップ雇用だと、会社内の新陳代謝は促されないばかりか、会社の目的に合わない人材を雇用し続けなければならないデメリットが指摘されました。

そこで企業はジョブ型雇用を進めることで、雇用の流動化を活発にさせ、高いスキルを持った人材を採用し、事業の拡大を目論む流れになってます。

政府も「転職が不利にならない柔軟な労働市場や企業慣行により、国全体の生産性が上がる」として、雇用が流動化することを望んでいます。

メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用

ところでわたしの現状認識は、いま展開されている流れとやや異なります。

というのは、わたしは会社員になって 30年 が経過するなかで、積極的な意思をもって転職活動したことはほぼ無いのですが、わたしの雇用は流動しているからです。

バブル期にわたしは新卒として、東証一部上場のメーカーの社内SE(システムエンジニア)として入りました。

この時代、知識より感性を重視する傾向が強く、わたしは何の専門的な知見がないにも関わらず、会社のなかで情報システム部門の存在価値が低いことを批判してました。

情報システム部門に必要なスキルは、プログラミングより会社の経営戦略や営業戦略から、どんなシステムを作るべきかをイメージする力だと思います。

若輩だったわたしが偉そうな言い方で、自分の部署の価値を否定するので、上司や先輩は不快だったかもしれません。

ただ、今でも「会社での情報システム部門の存在価値が低い」という指摘は的を得ていると思ってます。

経営とITが密接に関係しているにもかかわらず、会社の情報システム部門は、経営戦略や営業方針を決める重要な打ち合わせに参加もさせてもらえないというところは多いと思います。

これは利用者から見た、情報システム部門は、パソコンの手配やセッティング、ソフトウェアのインストールやシグネチャ(ウイルスのデータパターン)の配布し、パソコンやネットワークの管理をする組織にしか見えないからです。

もちろん、その仕事は必要な作業で価値もありますが、社内に保持する必要性はあまりありません。アウトソーシング化の対象にするべき作業だと思います。

いまは利用部門が主体で自分たちの業務改善に必要なシステムを構築したり、クラウドサービスを導入したりしています。利用部門が導入するシステムのなかには、情報システムが把握していないアプリケーションも相当数あります。そのようなソフトは、野良IT と呼ばれ、情報システム管理の問題になっています。

野良IT はセキュリティ上のリスクを抱えてます。

野良ITは、利用者が使いやすいように勝手に運用するのが普通ですので、セキュリティの設定が緩い場合が多い(そもそもセキュリティを管理する発想がない)とされます。野良ITに登録した顧客情報・機密情報が外部に第三者から簡単にアクセスされてしまい、情報漏えいになってしまう可能性があります。

野良ITは、会社のコンプライアンスとして大きな課題ですが、野良の状態を招いたのは、社内の情報システム部門が経営戦略に関与できていないことの結果だと思ってます。

話を新卒時代(1990年代)に戻します。

やがてバブルは崩壊し、入社したメーカーの経営環境が悪化しました。雇用調整の一環として、会社はグループ企業への支援という名目を打ち出します。

わたしは上司からの打診で、子会社に転籍しました。

子会社では所有する工場のシステム改善が主な役割でした。東西に散らばる工場巡りをしながら、生産計画、資材所要量計画(MRP)、発注・入庫、工程管理、支払い、製造原価計算、棚卸・在庫評価などの生産管理に必要な業務知識をたくわえながら、ITによる業務の効率化を推進しました。

そんな仕事をしているなか、親会社で大規模なITへの投資をすることになりました。本社に勤める社員は、ひとり一台のパソコンが配布され、グループウェアやイントラネットを活用することで、ホワイトカラーの業務の生産性を高める機運が高まりました。

そして、わたしは再び親会社に呼び戻されました。親会社で、社員のITリテラシーを高める教育や、イントラネットのアプリケーション開発を担いました。

そして、信頼する上司が転職したベンチャー企業から、「うちにきて、SAP をやってみないか!?」と、声をかけられたのが転機になりました。

いまではDX化の障害と揶揄されるSAPですが、かっては「SAP革命」といわれるほど、SAPはキラキラしてました。

わたしはメーカーで経験した生産管理の業務知識をSAPの導入コンサルティングに活かしたいと思い、思いきって転職しました。

それからSCMの領域を中心として、いくつかの企業のSAP案件に携わったのがメインのキャリアになりました。

転職したベンチャー企業は、ITに特化した会社ではなく、小さいながらメディアミックス的なビジネスを展開していました。多種多様なスキルや志向性を持った人材が集まる事務所は、古代ギリシアのアゴラの如く、コミュニケーションに満ち溢れていました。

SAPの仕事はとてもきつかったのですが、事務所はわたしにとって心地よい空間でした。

しかし、創業者の社長が引退すると、雲行きが怪しくなりました。元々、社長のカリスマ性で人を呼ぶ会社だったので、それを引き継ぐ後継者が本質的にいないのです。

2代目、3代目と経営者がコロコロ変わるなか、徐々に事業の幅は狭くなりました。ITビジネスは、それを専門としている会社に事業譲渡されました。

こうして振り返ると、わたしの転職志向はあまり高くないにも関わらず、そのときの経済情勢や、社長の経営方針などに左右され、雇用は流動してきたのです。

それは、わたしが特殊なわけではありません。相当数の会社員が自分の意思と別なところで、雇用される会社が変わっている経験をしていると思うのです。

たとえば、銀行のATMで接遇している社員は、はじめから銀行に勤めていた社員ではなく、百貨店からの異動組がかなりいると聞きます。

また、比較的最近の出来事で記憶にあるのが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けている企業を支援するため、大手家電量販店のノジマが、コールセンターの要員として、ANAグループからの 出向を受け入れたことです。

日本企業の人事部は、それほど閉鎖的ではありません。雇用調整を目的としてますが、企業グループの垣根を越えて、他社との人材連携をしっかりしてきていると考えてます。

ですので、よくいわれる「メンバーシップ雇用だと、会社内の新陳代謝は促されない。」というデメリットに対しては、必ずしもそうとは言えないというのが、わたしの認識です。