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「風土」の違いをあまり考えず、欧米的な合理性を追求する怖さ

厚生労働省ホームページに掲載されている「非正規雇用の現状と課題」の資料には、2010年以降に非正規雇用の増加が続いていることが記載されています(下記)。

出典:正規雇用労働者と非正規雇用労働者の推移(厚生労働省の報告書より)

この資料と同じく、労働者の平均給与の推移をみると、やはり2010年頃を境として、平均給与がガクンと落ちていることが分かります。

出典:平均給与(実質)の推移(厚生労働省の報告書より)

このことから、非正規雇用が増えたことで、労働者の給料が上がらなくなり、その結果、日本経済全体が低迷していると読み解くのが自然だと思います。

わたしは非正規雇用そのものを悪い雇用とは思っていません。なぜなら、働く人がワークライフバランスをはかる上で、非正規雇用は柔軟に労働時間を調整することができるからです。柔軟性のある働き方をする上で、雇用形態として正規雇用と非正規雇用があるのは、とても合理的です。

しかし、結果的に非正規雇用の増加により、日本経済が低迷したとなれば、それは問題だと思います。企業にとって非正規雇用はコスト削減による効果をもたらしますが、会社は経営の効率性を追求するあまり、生命線であるイノベーションに向かわなかったと思うからです。要はケチな会社が増えて、利益を得る方向性が、売上の拡大ではなく、コストの削減に向かったということです。

本来、合理的な発想に基づいて推進した雇用形態が、経済的にうまく機能しないのは、「働き方改革」と呼ばれる、一連の雇用の流動化をもたらす施策が、日本の風土にはあっていないからかもしれません。

「風土」で、思い出すのが、歴史的な哲学者である和辻哲郎の名著です。昭和10年に刊行された「風土」では、アジアからヨーロッパに至る地域を自然環境に基づいて、モンスーン地帯、砂漠地帯、牧場地帯の三つに分けています。そこで比較文化論として文化の違いを考察しています。

この本で日本は、東南アジアを含むモンスーン地帯に分類されています。

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和辻によれば、われわれ日本の国民も、モンスーン的である。すなわち、受容的・忍従的である。しかし、日本の風土は、規則的でありつつ、同時に変化にもまれている。つまり、季節的でありつつ突発的であるという二重性格であり、他方、大雨とともに大雪をもたらすという、熱帯的・寒帯的の二重性格をおびている。それは、人間生活自身の二重性格にほかならない。
~「人と思想 53 和辻哲郎 」小牧 治(著)・清水書院

雇用に関わらず、日本の経営モデルは欧米からの輸入が多いのですが、欧米と日本は「風土」が違います。

和辻哲郎は、ヨーロッパを牧場地帯に分類しています(アメリカについては和辻哲郎自身が留学していないので、記載はありません)。牧場的風土は「自然が従順であり、合理的に対応する」。としてます。こうした風土がヨーロッパの合理的精神、自由の概念、自然科学などが発達したと見ています。

わたしがはじめてドイツ製のERPパッケージ、SAP_R3 の学習をしたのは、1999年です。そのとき、このパッケージの持つ全体最適に基づいたビジネスロジックの合理性に感嘆しました。同時に日本の伝統的な製造業で10年の業務経験があるわたしは、このパッケージを日本企業が導入するのは、大変な困難がつきまとうと思いました。

わたしの専門は SAP のMM(購買・在庫モジュール)ですが、ロジックを勉強しながら、仕事でお世話になっている数々のベテラン購買担当者の顔を思い浮かべました。彼らは皆、このパッケージの導入に嫌悪感を示すだろうなと思ったのです。

そして、2000年に入り、わたしは現実としてプロジェクトの課題に直面しました。

いままで携わったSAPの導入プロジェクトは、現場の認知的不協和を招き、雰囲気は最悪でした。

結果的に日本の会社のSAPシステムは、標準機能に ABAP と呼ばれる SAP独自のプログラム言語を使った会社独自の機能をたくさん追加開発しました。カオスで複雑な業務を維持したままSAPを導入・稼働することになりました。

いま、DXを推進するうえで、大量の追加開発は足かせになってます。

欧米と日本の「風土」の違いをあまり考えず、欧米的な合理性を追求することの怖さを感じます。