叡智の三猿

〜森羅万象を情報セキュリティで捉える

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混乱をチャンスと捉える

わたしが会社のなかで、SESの事業を運営していたのは、2000年代の後半から約10年です。

SESとは「システム・エンジニアリング・サービス」の略です。エンジニアの労働力をお客様に提供する契約形態を指します。

SESの事業を運営するには、中心となるエンジニアの労働力以外に、SESの営業とエンジニアの技術力(スキル)をマネジメントする役割が必要です。

下図では3つの役割が相互に連携していることを示してます。

SESセールスは、エンジニアに仕事紹介します。エンジニアはお客様に労働力を提供することで、セールスに対する売上を提供します。

一方、エンジニアは自身のキャリアアップに対する相談をスキルマネジメントに照会します。スキルマネジメントは、エンジニアのスキルアップに向けた資格取得などの支援プログラムをエンジニアに提供します。

SESビジネスを成立させる3つの役割

国内には多数のSESビジネスを運営している会社があるのですが、ここに挙げた3つがきっちりと専任化されて機能している会社はあまりありません。

わたしが前任者から引き継いだSESビジネスもそうでした。

わたしがSESビジネスを引き継いだときは、セールスの機能が実質的にはありませんでした。もちろん、客先との商談や契約は必要ですので、セールスの仕事が無いわけではありません。ただ、そこはエンジニアのマネジメントを行う片手間で対応していたのです。

なぜ、セールスが不要だったかというと、お客様に提供対象としているサービスが、SAPに特化していたためです。

2000年代、SAPの導入サービスは、「金のなる木」でした。

下図はプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)と呼ばれる、会社の事業を4つにカテゴリー分けするマネジメント手法です。ボストン・コンサルティング・グループが提唱した古くからある概念で知っている方も多いと思います。

このなかで、金のなる木は、市場成長率は低いものの、シェアが高いので資金の流出が少なく、流入が多い状態の事業です。そのため、最も利益を生み出すことができる事業です。

PPM(プロダクト・ポートフォリオ)

2000年代、ERP(企業資源計画)を導入する大手企業の大半がドイツ製のERPパッケージであるSAPシステムを採用していました。

SAPのライバルとして Oracle や JD Edwards など、数社が類似するERPパッケージを販売してましたが、SAPのシェアは圧倒的でした。

そのため、SAPの導入サービスをSESビジネスとして採用していれば、案件はお客様から勝手に舞い込んで来ました。

エンジニアをSAPのコンサルタントや、アバッパーと呼ばれるSAP独自のプログラマを育成するには、多くのコストがかかりますが、案件の粗利率が高いので、そのコストは半年もあれば回収できるレベルでした。

しかし、この左団扇な状況は、突然、終わります。

2008年に起きたリーマンショックです。

リーマンショックは、2008年9月アメリカの投資銀行であるリーマンブラザーズが破綻したことに端を発してます。当初、日本への影響は限定的という見方が主流でしたが、結果的には、日本を含め、世界的に経済は大混乱となりました。

SAPの導入は会社にとって、莫大な資金を必要とするプロジェクトです。この年、どの会社も一斉に導入を凍結しました。SAP導入そのものを諦めるのではなく、プロジェクトをいったん凍結し、経済が落ち着くまで見送るという判断です。

その為、すでにSAPが稼働しているお客様の保守的な仕事をのぞけば、SAPの新規導入案件がなくなってしまったのです。

SAP導入を手掛けている 大手SIerの日本IBM は、1000人の社員に対して退職勧告を行う措置を取りました。国内に仕事のない SAPコンサルタントが溢れました。

わたしが運営するSESビジネスもこの荒波をモロに被ってしまい、半数近くの社内のエンジニアが仕事のない状態が続きました。

会社のトップは緊急事態として、対策会議を何回もしたのですが、社内の会議で解決できる状況ではありませんでした。

この状況でわたしが優先して対応しなければいけないのは、仕事のないエンジニアのメンバーに仕事を与えることでした。みんなSAPのエンジニアなので、SAP案件の仕事を与えるのが理想ですが、残念ながらSAP案件に拘っていると、いつまでも案件を提示することが出来ません。

幸い、リーマンショックのなかでも、スクラッチ系の開発案件は、SAPより導入規模が小さいことから、コストも安く案件の凍結があまりないことが確認できました。

わたしはメンバーとSAP案件でないが、仕事をお願いしたいと、個別にエンジニアと話をしました。そして、了承を得たメンバーから、順次、スクラッチ系の開発案件のPMOやSEとして参画してもらいました。結果として減収減益となりましたが、2008年の終わりには、仕事のないエンジニアはゼロになりました。

次に着手したのは、営業チームを作り、専任化させることでした。わたしはそれまで大した営業経験はなかったのですが、SES営業のリーダーを兼務しました。そして、SESとは別な事業部で営業しているメンバーを新たに営業要員として迎い入れました。更に、リーマンショックの影響で退職した、知り合いのSESの営業経験のある人材を雇用しました。

SESの営業チームを発足を契機として、社外のエンジニアもSESビジネスの要員として売上を確保するようにしました。SAPでない案件を担うことで、粗利が低下した分を社外のエンジニアで補填することができました。

一連の取り組みによって、2011年末には、リーマンショック前よりも売上も利益も拡大しました。

リーマンショックのようなビジネスのリスクは、常につきまとまっています。

そういうリスクが顕在化した場合、間違いなく、混乱がおきます。それによって安定していると思われた成果は、どん底に落ちるかもしれません。しかし、混乱は改革のチャンスでもあります。混乱をチャンスととらえることで、混乱の前よりも一歩上を行く可能性が見えてきます。

安定から混乱そして改革

要は何事もポジティブに考えることが、リーダーにとって重要な志向性だと思います。