叡智の三猿

〜森羅万象を情報セキュリティで捉える

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臭いものにはふたをする

大本営発表

ミッドウェー海戦で日本軍は空母四隻(赤城、加賀、蒼龍、飛龍)を失う大損害を負い退却。多数の犠牲者をもたらしました。

しかし、日本軍は国民の士気に与える影響を考慮して、事実を隠蔽する方針をとりました。大本営発表に基づく1942年6月11日の朝日新聞「米空母二隻(エンタープライズ、ホーネット)撃沈」と報じています。

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ミッドウェー海戦を伝える記事

この隠蔽は情報セキュリティの本質を示していると思います。情報セキュリティとは、自らの組織を守るために存在するということです。そして、組織を守るためには、時として組織の利害関係者である国民を危険に晒すということです。

本来であれば、連合艦隊司令長官である山本五十六や第一航空艦隊司令長官の南雲忠一は、作戦の失敗に対する責任を負うべきでしょう。そして、失敗の原因を追求し、作戦を立て直す必要があるでしょう。

しかし、大本営は戦果を強調する発表をしたことで、司令官は責任を負うことはなくなりました。「臭いものにはふたをする」ことで組織防衛をはかったのです。

テラスハウス」の検証報告

組織防衛をはかる為、真実の追求と責任の所在を曖昧にするのは、国レベルでも企業レベルでもあり、それは昔も今も変わらないと感じています。

最近の出来事で印象に残っているのは、7月に発表したフジテレビの「TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020」検証報告です。

これは、今年の5月にフジテレビの恋愛リアリティーショー「テラスハウス」に出演していた木村花さんが、SNS上での誹謗・中傷を理由に自殺したのを受けての報告です。
www.asahi.com
報告書は「カメラの前での言動を木村花さんに指示や強要したりしたことはなかった。」「SNSを炎上させて盛り上げようとしたことは無かった。」と結論づけています。

この報告書は、番組審議委員より「第三者委員会を設置して客観的視点から調査を行うべきではないか。」という意見が出されています。しかし、検証にあたってフジテレビは第三者委員会を設置しませんでした。

その理由として、報告書ではー

  1. 事実調査を詳細かつ迅速に進めるためには、外部の独立委員のみの第三者委員会では、調査対象である番組関係者等が、発言を控えたりする懸念があること。
  2. 検証における聞き取りの対象となる制作スタッフや出演者の中には、木村花さんが亡くなったことに強いショックを受けている者が複数名おり、外部の独立委員による聞き取りを行った場合、過度な精神的負荷を強いることが懸念されるとともに、却って適切な証言を得られなくなる可能性もあること。

をあげています。

わたしはテレビ番組の制作の仕事をしている人を何人か知っていますが、どの人も寝食を惜しんで、番組づくりに取り組んでいます。ですので出演者が自殺したことに強いショックを受けているのは、そうだろうと思います。しかし、過度な熱意をもって仕事に取り組むことは、自己正当化を生みやすいのです。「わたしはこんなに頑張っているんだから、間違っていない。」という感情が生まれやすいのです。

ITの世界では三者検証といって、システム開発者ではない者が、第三者の視点からシステム品質の検証・評価を行います。第三者検証により、開発者では気づかない不具合や欠陥を検出し、信頼性が高いシステムを構築する事が出来るのです。

番組が発端となり、SNSでの誹謗・中傷が起き、被害者が自殺するというのは大問題です。大きな問題だからこそ、番組を作る側の自助努力で改善すればいいものではなく、第三者からの客観的視点の評価が重要だと思います。

そして何よりも被害者である木村花さんの母親は、フジテレビの調査結果に納得していません。母親はテレビ局や制作サイドとしての言い訳が並べられた、公正かつ真摯に調査が行われたとは感じられない内容と語っています。

テレビを見ているわたしたち視聴者も同じ感想だと思います。

報告書は被害者の感情に理解を示しているように見せながら、実際に行なっていることは、組織防衛をしながら、SNSへの責任転嫁をしているように感じるのです。