架空の回答
去る6月19日、フジテレビと産経新聞社が合同で行う世論調査で、実際には電話をしていない架空の回答が含まれる不正が見つかったことを発表しました。
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世論調査の改ざんはフジ側から調査業務を委託されていたアダムスコミュニケーション社が、再委託した日本テレネット社の管理職の社員が主導したとされています。
これは業務委託先による内部不正です。
世論調査で不正が起きる要因として想定しやすいのは、必要なサンプル数が集まらないことだと思います。その為、納期に間に合わす為に架空の回答をでっちあげてしまいます。
この不正の本質を考えたいと思いました。
不正のトライアングル
架空回答による改ざんを主導した管理職社員はー
- 派遣スタッフの電話オペレーターの確保が難しかった
- 利益向上のためだった
- 社内のほかの人たちも手伝った
と述べているとのことです。
内部不正が成立する条件として知られているのが「不正のトライアングル」です。不正が行われる条件は「機会」「動機」「正当化」の3つの要因がそろった時に発生するとされます。
- 機会:不正が可能な状況を指しています。
- 動機:不正を犯す必要性を指しています。
- 正当化:不正行為をを正当化する志向性を指しています。
(不正のトライアングルはこちらにも書いています)
再委託先が架空の回答による改ざんを行なった原因を「不正のトライアングル」で分類して、ロジックツリーにしてみました。ロジックツリーはロジカルシンキングの手法として有名です。問題をツリー状に分解し、想定される原因を掘り下げます。原因を掘り下げることで、本質的な要因を特定します。
このロジックツリーを見ながら、目についたのは、お金(コスト)の問題です。
- 請負金額が低く真面目に仕事をすると赤字になる。
- オペレータの単金が低く仕事の魅力がない。
プロジェクト管理では、QCDという言葉がよく使われます。
QCDは品質(Quallity)コスト(Cost)納期(Delivery)の頭文字をとったものです。QCDの視点で見ると、納期を守る為に単に品質を下げる(架空の回答をつくる)だけでなく、コスト(オペレータの人件費)まで下げています。
この事件は再委託先のコンプライアンスの欠如に留まりません。マスメディアの世論調査そのものの仕事の構造上の課題があると思います。
再委託先がこの業務委託を幾らで受けているのかは分かりません。しかし、委託元からそれなりのマージンも取られているでしょう。相当厳しい条件で業務を請け負っていたのではないでしょうか。
アルバイト調査員の記憶
そういえば、大学時代、世論調査の調査員のアルバイトをしたことがあります。わたしがやったのは、電話による調査ではなく、家庭に訪問するやり方でした。どの家庭のどの人に訪問するかは、会社から訪問先のリストが渡されました。リストにある50名くらいの人に直接訪問して、アンケートに回答をお願いするやり方です。
昭和61年は衆参ダブル選挙を控えたなかでの世論調査でした。当時の情勢は中曽根政権は安泰で、自民党が非常に強い時代でした。自民党が強いという意味ではいまと似た世相かもしれません。世論調査でも多くの方が自民党を支持していると回答していました。ただ、回答者の言い方はマチマチでした。積極的に自民党を支持している人はあまり多いと思えず、自民党であればとりあえず安心みたいな空気でした。一方、野党を支持している人は、いまの政治に対する不信感を強く抱いているように感じました。中曽根さんに対して、信用出来ないという声も聞きました。
この衆参ダブル選挙は、自民党の圧勝でした。世論調査の結果が選挙にそのまま反映されました。
しかし、わたしは自民党が獲得した議席数ほど、支持されているように感じませんでした。それは世論調査を通じて、政治そのものに対する期待値の低さが底流にあると感じたからです。
それを裏づけているのか、3年後に行われた参議院選挙です。そこで社会党の土井たか子委員長の旋風があり与野党が逆転しました。そのとき、土井委員長が「山が動いた」という名言?を残しました。
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安倍政権の連続在任日数が歴代1位となりました。いまは健康不安説が取りざたされているようで、今日にも関連した会見があるとされ注目されます。何れにせよ、自民党総裁としての任期は来年の9月末日です。
長く安定した政権も終わりを迎えつつあり、政界のなりゆきは変化していきます。
世論調査で架空の回答をでっちあげると、数字にあらわれない国民の声を感じることは出来ないでしょう。国民の声を感じ取れないマスメディアは存在価値があるのか疑問です。そんなことは分かっているはずなのにしてしまった改ざん・・・。