叡智の三猿

〜森羅万象を情報セキュリティで捉える

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情報システム部門の立ち位置と経営戦略

わたしが社会人になったのは 1990年 です。

新卒で入社した会社の採用担当の方からーー

これからは「情報」の時代だよ。

と、いう話がきっかけとなり、わたしは学生時代にまったく縁が遠いものと思っていた「情報システム部門」に配属されました。

当時、IT業界では SIS(戦略的情報システム)という言葉がトレンドでした。

SIS(Strategic Information System)は、企業の情報システムを単なる業務を効率化する役割として捉えるのではなく、競争上の優位を築くための経営戦略の中核に位置づける考え方です。

あのときのテレビCMでは、有名タレントが「SISやりましょう!」と、言葉を発しながらコンピュータ機器の拡販に貢献してました。

わたしは、コンピュータや情報処理に対する知見が全くなかったのですが、SIS という言葉には非常に興味を覚えました。

入社した会社では、はじめの半年はOJTを通じ、その成果を発表する場がありました。成果発表で、わたしが取り上げたテーマは「SISの可能性」というタイトルでした。

でも、わたしが入社してはじめての仕事は、汎用機のオペレーションでした。

オペレーションの主な仕事は、オンラインシステムが正常に稼働していることを監視することです。決められた時間にバッチジョブを起動したり、データをキーボードから入力したり、カートリッジ(一部はオープンリールテープも残ってました)を機器に挿入したりしてました。バッチ処理の結果、プリンターから出力された帳票を切断して、利用部門別の棚に置くことでした。

24時間稼働の空冷式のコンピュータルームは、キンキンに冷え、夏でもあったかいカップヌードルを食べたくなります。

ペアで働くオペレータ以外との会話はありません。入り口の扉にある小さな窓から、事務所で働く人々の様子を覗くと、社員同士が集まって楽しそうな会話をしてたり、広いフロアを社員が動き回っている様子が見え、それが、ちょっと羨ましい感じがしました。

そんなOJTから SIS を彷彿する要素はまったくありませんでした。ですので、わたしの成果発表は実務とはかけ離れた、妄想の産物でした。

ただ、そのときは「わたしは新人で ITの知見もないから、マニュアルさえあれば、誰でもできる仕事を与えられているんだ」と、納得してました。

いずれは SIS と呼べるような情報システムに携わり、人から感謝されるようになるんだと思ってました。

しかし、入社から数年経っても、社内でITの仕事をしながら、SIS を担っていると感じる機会はありませんでした。

それどころか、会社内に於ける「情報システム部門」は、どうも異質に映っていると感じました。

他の部門から見る「情報システム部門」は、コンピュータが好きな人たちの集まりであり、自分たちが普段やっている業務とは、違う感覚で仕事をしている人という印象を持っていることに気づいたのです。

それを顕著に感じたのは、会社では、各部門のトップが集まる、定例会をやっていたのですが、そこに情報システム部門のトップが呼ばれてないことを知ったときです。

営業や製造、経理や労務・・・当たり前ですが、会社にはいろんな部門があります。定例会は各部門での活動状況を共有し、課題を議論する場のはずです。情報システム部門が、定例会に呼ばれないということは、情報システム部門の活動は、会社の経営戦略を立案したり、評価するための参考情報にはならないと解釈しました。

わたしはそれはかなり異様だと感じました。

ただ、それ以上に異様だと思ったのは、情報システム部門で仕事をするほかの人たちは、定例会に呼ばれないことを「変」だとか、「おかしい」とは感じてないことでした。

むしろ「自分たちの仕事は専門性が高いから、他部門と仕事内容を共有しても、意味がない。」と、考えていると感じました。

情報システムの仕事は、専門性が高いのは事実かもしれません。しかし、情報システムの仕事の内容や、活動状況を他部門と共有しなければ、SISなど絵にかいた餅でしかありません。

実際、社内のシステムエンジニアとして仕事をすればするほど、情報システムが会社のなかで単なるデータ入力装置としての役割しか果たしていないことに疑問を持つようになりました。

例として、製造業に於けるサプライチェーンの課題を挙げます。

わたしがいた会社は、生活用品を製造するメーカーでした。

製品の生産形態は見込生産です。

見込生産とは、将来の需要を予測して生産計画を立てる生産形態です。

見込生産以外にも製造業はさまざまな生産形態がありますが、要点は生産形態によってサプライチェーン上の在庫ポイントが異なることです(下図)。

生産形態と在庫ポイント

見込生産方式は、つぎのような課題があります。

  1. 需要予測の不確実性:需要予測は不確実性の高い仕事であり、正確な需要予測を行うことが難しく、予測誤差が生じる可能性があります。
  2. 在庫管理の精度劣化:見込生産では、適切な在庫管理ができないと、需要と供給の不一致が生じる可能性があります。在庫が不足すると販売機会を損失し、在庫が過剰になると在庫管理コストがかさみます。
  3. 需要変動への迅速な対応の困難さ:市場に於ける需要は常に変化します。需要変動に柔軟に対応可能な情報システムが構築されてなければ、適切な生産計画の立案が困難です。

こうした見込生産に於ける課題に対処するためには、リアルタイムな販売実績の入手と、精度の高い需要予測。そして需要変動による柔軟な生産計画と部品や原材料の調達が可能な、サプライチェーンマネジメントのシステムを構築する必要があります。

サプライチェーンマネジメントシステムの構築は企業経営そのものを左右する重要なシステムだと思うのですが、わたしがいた会社で提供しているのは、単なる生産計画を登録する画面です。

生産計画の立案は、製造部門と営業部門が、製販会議と呼ばれる会議を月に1回、開催し、そこで決めた内容をもとに、生産管理の担当者がコンピュータに日別の生産計画をインプットする画面があるのみです。

会社の労働組合は、自社製品の斡旋販売を行ってました。斡旋販売では、売れ残った自社生産の生活用品を格安で販売してました。

わたしは、組合の斡旋販売のパンフレットを見ながらーー

こんなに売れ残るのは、売れないモノを作り続けるうちの会社の生産システムに欠陥があるからだよね~

と、同僚に言ってました。

その言葉には、同僚の誰もが同意していたのですが、欠陥の原因は、会社に於ける情報システム部門の立ち位置に問題があることには、結びついてないことがせつなかった思い出です。