叡智の三猿

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経営革新の幻想とコンサルティングの役割

コンサルタントを目指す学生はむかしも今も多くいます。

特に入学偏差値の高い大学では、コンサル志望の学生が多い傾向があるようです。

仕事選びに関するあらゆるデータを集め、見える化を行っているワンキャリアの調査を見ると、2025年に東大を卒業する予定の就活生が志望する、上位10社のうち、ナント7社がコンサル系企業という結果が出ています(野村総研、ボストン、デロイトトーマツ、アクセンチュア、ベイカレント、アビーム、マッキンゼー)。

世間的なイメージでコンサルと聞くと、「かっこいい、知的」という感じだと思います。

コンサルは給与条件のよい会社が多いので、人気なのはよくわかります。高学歴な学生は、安定志向であることもうかがえます。

わたしはコンサル会社の社員になったことはありません。ですので、コンサルティング会社の内部事情は分かりません。ただ、準委任でコンサル会社と契約し、コンサルタントとしてクライアント企業と仕事をした経験は何度かあります。

また、クライアント企業側の立場として、コンサル会社から業務改革の提案を受けたこともあります。

コンサルタントの仕事は、クライアント企業に対して専門的なアドバイスを提供し、業績向上や課題の解決を支援します。経営課題から根本原因を見出し、最適な戦略や改善策を提案します。

わたしが思うのは、20年くらい前と比較すると、コンサルティング会社の提案にワクワクするような魅力を感じなくなっていることです。

この感覚をうまく表現するのは難しいのですが、いまのコンサル会社の提案を歌手にたとえるなら、かって一世風靡した歌手が大御所となり、当時のヒット曲をいまでも歌い続けている感じがします。聴衆は大御所の歌を聴きながら、あの頃と変わらない歌声を聴いて安心し、青春していた当時を思い出して、感慨にふけっている状況です。

大手企業は大規模なシステムを導入する場面で、いまもコンサルティング会社を使い、業務改革の提案を依頼します。コンサルタントに依頼する価格は結構な高額なのですが、メインとなる成果物は、パワーポイントで策定された資料くらいです。

その資料の中味は、非常に見やすく、定量的にも定性的にも裏打ちされた説得力はあるのですが、目新しさをあまり感じる内容ではありません。

なぜ、そう思うんだろう??

わたしが思うのは、コンサルティングのアプローチは、常にトップダウンからの提案になっていることが、資料の目新しさを感じない原因じゃないかと思います。

下図は製造業のサプライチェーンマネジメントを改革するにあたって、経営戦略から戦術へと、落とし込みをした例です。

戦略から戦術へ

コンサルティング会社は、クライアント企業のビジネスの改革の提案を策定するにあたり、経営層が考える戦略との整合性を重視します。経営戦略から事業戦略へと落とし込み、各業務部門の戦略に対する客観的なアドバイスをします。最終的には、戦術として具体的なアクションプランを提案します。

サプライチェーンマネジメントの戦略では、いろんな経営用語が使われるのですが、わたしがはじめて聞いたときに印象的だったのは「ブルウィップ効果」と呼ばれる需要のブレです。

ブルウィップ効果は、サプライチェーンにある 川下(消費者)の小さな需要が、まるで鞭がしなりをうつように、川上(生産)側にいくにつれて、大きな変動が起きて、需要を必要以上に大きく捉えてしまう影響を指します。

コンサルタントの提案は、サプライチェーンの在庫を持つ拠点を減らし、実需である消費者に近づけることで、ブルウィップ効果の影響を減らすとしています。

ブルウィップ効果

はじめて「ブルウィップ効果」を知ったときは、「なるほどな~」と、感動したのですが、いまでもサプライチェーンマネジメントの提案に使われているようです。

コンサルティング会社の提案は、もれなく IT(DX化)による刷新を含みます。

コンサルティング会社にとって、IT はクライアントの事業を支えるツールです。提案書では、IT を効果的に活用することで、経営戦略の成功に導くというストーリーを描きます。

経営層はコンサル会社の提案を理解し、ITへの戦略的な投資が、効果的であることを把握し、意思決定します。

サプライチェーンマネジメントシステムを例に挙げれば、需要予測の原資となる実績データを保管するデータウエアハウスが必要です。少なくとも営業システムで生成される自社製品の販売実績の履歴データは必須です。競合退社の販売実績や、業界の実績動向を収集することもあります。更にビッグデータとして、構造化されていない大量のデータを扱う可能性もあります。

需要予測はモデリングによる統計的な予測が一般的です。ただ、AIブームの昨今は、機械学習による予測も注目されてます。

需要予測が業務として使えるかを判断するのに重要なのは、予測精度もさることですが、演算処理が高速であることです。企業が取り扱っている商品の数は、一般的に想像するより多くあります。わたしが勤務していた生活用品を扱うメーカーでは 5,000 あまりの商品を扱ってました。

需要予測は、物流リードタイムやサプライチェーン上の拠点で、保有するべき安全在庫を加味した生産計画に連動します。更に計画業務から実行業務につなげるためには、生産管理や購買管理システムも、サプライチェーンマネジメントの範疇に含みます。

これだけの大きな業務の範疇を IT で刷新するのですから、投資額が大きいことは簡単に想像つくと思います。

そんな大きな決断を経営者がするのは大変なことです。コンサルティング会社の成果物が、そこに必要なことは言うまでもありません。

因みに実際のITを導入する場面では、コンサルティング会社は深く関与しないのが一般的です。

ITを導入する段階では、選定されたベンダーから ITエンジニアが参画します。ちょっとややこしいのは、ベンダーから派遣されたITエンジニアも、要件定義などの上流工程に携わる人は、コンサルタントと呼ばれることです。これは、コンサルタントだと、ベンダーが単価を高く設定できるからです。正しい言い方は、コンサルタントSE なのですが、SE(システムエンジニア)を基準にすると、単価がダウンしてしまうので、ベンダーはその言葉を避けています。

むかしも今も、コンサルティング会社は、クライアント企業の経営戦略に寄り添い、戦略を実現するための提案をします。

しかし、実際のところ多くの大企業の経営戦略は、使い古された言葉が羅列され、既に陳腐化してます。時代の変化は、経営者の頭のなかでは処理しきれないほど、激しくなってます。残念ながら経営者の多くは、口では経営革新を叫びながら、実のところは、いまの経営体制を維持することが本音だと思います。

コンサルティング会社の提案によって、企業が経営革新を果たすことは、幻想でしかないと思うのです。