わたしが大企業(製造業)から従業員が20名に満たない中小企業(サービス業)に転職したのは 1999年 の終わりです。
当時、在籍してた大企業の情報システム部門は、来るべき Y2K(西暦2000年問題)問題が、日々検討されました。管理職は西暦2000年を迎え、コンピュータシステムが誤作動を起こした場合の責任の在り方に頭を悩ませているように見えました。
わたしも情報システム部門の一員として、Y2Kに備え、COBOLで作られた管理システムの DATA DIVISION (データ項目定義をするコーディングの領域)を確認し、年の定義漏れがないかを検証してました。
そんな折、なにかとお世話になってた先輩から「うちの会社に来てみないか?」と、声をかけられました。
「縁」のある先輩からの誘いなので、まずは、その会社を覗いてみようと、夜に小さな事務所を訪ねました。
そこでは社長をはじめとする社員たちが、自らの信条を語り、わたしのような外部の人間も議論に参加していました。
誰の言葉も真実のような輝きを放ち、歴史の教科書で学んだ、ルネサンス革命の雰囲気に溢れていると感じました。
そのとき、わたしは大きいが古い体質の会社から、小さくとも将来に夢が持てそうな会社に転職してみたいと思いました。
わたしは、声をかけてくれた先輩社員に「生産管理システムの変革に携わるコンサルタントのような仕事がしたい」と、話しました。
当時、日本の「ものづくり」は、転換期にありました。
大量生産の時代が終わり、多品種少量生産になったことで、MRP(資材所要量計画)による適正購買や、多品種を製造するための「セル生産方式」が注目されていました。
わたしは製造業で経験した知見を次の会社で活かしたいと思いました。
セル生産方式について、補足します。
大量生産方式の時代、生産の主流を占めていたのが、下記のようなライン別生産方式です。ライン別生産方式では、製品をベルトコンベヤ上に流し、各工程に配置された職工さんが順番に部品や原材料を組付けたり、投入することで、連続的に製品を製造する生産方式です。
一方、セル生産方式では、少人数(1人を含む)のチームで、製品の製造を生産します。
セル生産方式は、複数の工程を「セル」という単位で定義し、「セル」の組み合わせを動的に定義することで、多品種少量生産に対応する生産管理の仕組みが可能とします(下図)。
結果、わたしは小さな会社に、生産管理システムのコンサルタントとして採用されました。
そして、長い期間、小さな会社でコンサルとしての仕事をやり続けることとなるのですが、もうひとつ、入社してから、わたしにふって来た役割があります。
それは、「ひとり情シス」という現実です。
事務所にいる社員は確かに有能な人が多いのですが、パソコン周りに明るい人がいませんでした。
わたしは大企業の情報システム部門に居た経緯もあるので、事務所にいる社員は、コンピュータに関することなら、何でもわたしが対応してくれるという幻想を持ったのです。
プリンターの紙が詰まったんだけど、とってくれないかな。
なんかこの エクセル、循環参照って文字が出てきて、変なんですけど、診てくれますか?
というような、コンピュータに関するトラブルはすべて、わたしに解決を求められました。
このノートパソコン、キーキーと唸るような音が出て、不安なので、直すことってできますか?
いや、わたし、ハードウェアの技術者じゃないんで、修理は無理です。買いなおした方がいいんじゃないですかね。
そうなんだ、コンピュータのことだったら、何でも解決してくれるって思ったんだけど、そうじゃないんだ。
と、勝手にがっかりされて、その言葉にわたしの方が傷ついたりしました。
中小企業で専門の情報システムを組織化しているところは、いまでもほぼ無いと思います。わたしのように、本業は別な仕事を持ちつつ、コンピュータシステム周りに明るそうな人間が半ばボランティアで、情シスを担っているのが現実だと思います。
人の少ない中小企業こそ、業務の IT 化による恩恵は大きいと思うのですが、「ひとり情シス」の課題がボトルネックになるのは、昔も今も同じでしょう。