AI、DX化が進むと多くの仕事が消えると言われています。
消えると言われる仕事のなかには、わたしもやっている「データ入力」の仕事もあります。逆にAI化が進んでも残る仕事はあるかを聞かれると、明確な答えは誰も言えないと思います。
よくある論評として「人の機微な心を読み取る必要がある仕事は、AIでは対応できないので残る」というのがありますが、ホントにそうか疑問です。たとえば、営業マンは、お客様と対峙するので、お客様の心をつかむ必要がある仕事です。しかし、会社が販売している商品やサービスがすべてネットやチャットボットで、お客様に伝わるようになれば、営業マンは不要な気がします。もちろん、ネットにアクセスする能力がない人向けに対面営業は一部で残るでしょうが、仕事は減少の一途をたどるかもしれません。
では、AI、DX化によって消える仕事の代表格?とされる「データ入力」は、本当に消えるのでしょうか?
一般的な「データ入力」の仕事は、申込書など紙に書かれた文字を人間が読み、コンピュータの画面に登録することです。
ですので、データ入力の仕事は次のように分かれます。
- 紙に書かれた文字を読み取る
- 文字をコンピュータの画面に入力する
「紙に書かれた文字を読み取る」技術をOCR(Optical Character Recognition/Reader・光学的文字認識)といいます。OCRは、手書きや印刷された文字を、イメージスキャナやデジタルカメラによって読みとり、コンピュータが利用できるデジタルの文字コードに変換する技術の総称です。人間は、紙に書かれている文字をイメージとして、無意識に理解しますが、コンピューターは自動的にイメージを読み取ることができません。そのため、イメージデータのテキスト部分を認識し、文字データに変換する技術が必要になります。
このOCRにAIを取り入れることで、ディープラーニングが可能となります。仮に文字を読み間違えても、間違えたデータをAIが学習することで、文字の認識率を向上することが可能になります。
「文字をコンピュータの画面に入力する」技術は、RPA(Robotic Process Automation・デジタルレイバー)といいます。データ入力に象徴される、ホワイトカラーの仕事をパソコンやサーバにインストールされたRPAロボットが人間に代わって作業を行い、自動化を実現する目的で注目されています。
もともと、工場勤務に象徴されるブルーカラーの仕事は、人間を補助する戦力としてロボットの導入は進んでいます。わたしは生産管理システムの構築経験がながく、いままでいろんな工場をみてきたのですが、化学繊維や飲料などはロボット化が進み、広い製造ラインに職工さんの姿はまばらです。製造業は1円の製造原価を低減することで、大きな収益改善を得ることができるので、むかしからロボット化が取り組まれていました。
一方、ホワイトカラーの仕事は労働統計上、販管費に分類されます。販管費は商品や製品やサービスの販売にかかる費用です。製造原価に比べると販管費の管理はどんぶりでした。営業利益は売上総利益(粗利)から販管費を引いた、本業による実質的な利益ですので、販管費が膨れると会社の利益を損ねます。長いデフレで価格競争がし烈になるにつれ、コストを抑える手段として製造原価だけにメスを入れるのは限界です。経営戦略としてホワイトカラーの業務のなかでも、単純で膨大なルーチンワークをRPAによって自動化することで、大幅な人件費の削減に手をつけるようになりました。
「紙に書かれた文字を読み取る」技術であるOCRと、「文字をコンピュータの画面に入力する」技術であるRPAが、正確に動作するようになれば、「データ入力」の仕事で人間はいらなくなるはずです。人間が仕事に介在しなくなる状態がDX化ですので、100%DX化されることが会社としての目標です。
では、現時点でどこまでDX化が進んでいるのでしょうか!?
これは会社によってまちまちなので、数値化するのは無理があるのですが、わたしの感覚でDX化は30%くらいで足踏みしていると思います。すなわち、消える仕事の代表とされる「データ入力」でも、DX化は全然進んでいません。
OCRに関しては数年前に比べると、文字認識の精度は向上しましたが、まだまだ発展途上です。画像を文字だと勘違いしたり、手書き文字を別な文字に変換するなどザラで、実務で使えるレベルには到達していないと思います。
RPAは導入当初の期待は裏切られ、あちこちの会社で失敗しています。RPAが実力を発揮するのは、単純作業ですが、単純作業に見えて実は単純作業でないというのが、日本の会社の事務作業には多くあります。これは例外処理と呼ばれます。人間は例外処理でもある程度柔軟に対応します。しかし、RPAは例外処理が発生した時点でエラーになります。RPAを成功させるには、例外処理を無くす業務のシンプル化が必要ですが、そのような取り組みをするのが日本の会社は苦手なようです。