叡智の三猿

〜森羅万象を情報セキュリティで捉える

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高付加価値が顧客満足につながっていたころ

わたしがまだ、新入社員だったとき(30年前の1990年!!)、先輩社員が今後、わたしが仕事で関わりを持つであろう、部門の方々との顔合わせと、それぞれの部門がどんな仕事をしているかを教えて頂くミーティングを設定して頂きました。

わたしの配属は情報システム部門でした。勤めている会社で行われている業務を IT化することがミッションです。今日は経理部門、明日は営業部門・・・と、日々、顔合わせを設定して頂きました。わたしの勤めている会社は、最終消費財(消費者が生活において使用するモノを指します)を製造しているメーカーですので、本社だけでなく、国内にある各工場の担当者(生産管理部門)とも、出張してお話を伺いました。

そして、長期に渡るミーティングを終えたとき、広い本社スペースの一角だけ、話を聞いてないことが気になりました。

フロアマップを見ると、そこは「消費者対応」と書かれている部門でした。この部門の方は、いつも電話応対しながらメモを取る印象でした。

当時はひとり一台にパソコンが供与される時代ではありません。どの部門の机も、紙と鉛筆が仕事のツールです。コミニュケーションは電話です。机にあるコンピュータぽく見える機器はワープロ専用機でした。富士通の OASYS が活躍していた記憶です。

コンピュータにデータを入力する場合は、専用のコーナーに社員が移動して、そこで集中的にデータ入力をしていました。経理上の締めとなる月末月初は、女性社員がデータ入力の順番待ちをしていました。

わたしは「消費者対応」の方々と、顔合わせがされないことが気になり、先輩社員に確認しました。たくさんの部門とミーティングが設定されていたので、調整漏れがあったと思いました。

しかし、先輩社員はこう言いました。

あそこは、情報システムとの関わりがあまりないから・・・また機会があればやるよ。

消費者対応は、消費者からの問い合わせを電話で受けて対応する仕事です。製造している商品のラベルには、消費者対応の電話窓口が記載されていました。

「なるほど、、消費者との電話でのやり取りは、情報システムとは関わりがないんだ。」と、理解しました。

ただ、そこに違和感を感じました。

当時、ビジネス用語で CS というのがありました。いま、ビジネス用語で CS と聞くと、カスタマーサクセスを連想する人が多いと思いますが、当時はそんな言葉はありません。CS はカスタマーサティスファクション(顧客満足)の略です。当時、愛読しているビジネス書には CS(顧客満足) の重要性が書かれ、経営者も「お客様第一主義」「CS経営」を唱えていました。

そうすると、経営戦略として、お客様第一を掲げながら、実際に寄せられるお客様の声は、情報システムと関わりがない・・・それはなんか変な感じがしたのです。

いまから思うと、あの頃の顧客満足(CS)は、いまとはかなり違うようです。

1990年はバブル絶頂期です。

バブル期の消費者は単にモノが欲しいのではなく、商品を買ったり、サービスを受けることで、そこに自分の個性あるライフスタイルを投影させていたと思います。

多品種少量生産の時代と、言われました。ファッションの世界では、裏原系という言葉が流行りました。これは、いまの表参道ヒルズの奥にある場所から発信される希少性のあるアパレル洋品や、ブランドの総称です。みんなで同じ服を着るより、自分の個性をファッションに活かしていた時代です。古着もヴィンテージとして、モノによっては、新品より高く売られていました。

因みに新入社員だったわたしの歓迎会は、都内の「イタめし」レストランでした。わたしは(新入社員なので)お金を出していないのですが、かなり高価な店だったはずです。食後のデザートはもちろん「ティラミス」です!!いまだと、新入社員の歓迎会は、ケータリングサービスを利用し、事務所の会議室で開催といったところでしょうか!?

あの頃、顧客満足は「安さ」よりも、商品に「高い付加価値」があることで、もたらされていました。

商品やサービスに付加価値を注ぎ込むのは、主に商品・サービス企画の仕事です。企画の担当者は市場にアンテナを巡らせ、自らの感性を武器としてアイデアを提示し、新たな価値をお客様に提案します。

そのビジネスの発想は、マーケッティング用語で「プロダクトアウト」と言われます(下図)。プロダクトアウトの成功例として、ソニーが1979年に販売したウォークマンがよく挙げられます。録音機能なしでは売れないという声に反して大ヒットしました。新たなライフスタイルを創造した画期的な商品です。

バブル時代の商品開発は、どの会社もウォークマン的なアイデアで市場競争に挑みました。

マーケットインとプロダクトアウト

一方、「消費者対応」に寄せられる「お客様の声」は、商品に対するクレームがほとんどです。多くのクレームは商品の製造過程で発生した不具合に起因します。確かに重要な声です。製造工程に於ける品質検査や生産設備の改善に、その声は活用するべきですが、クレーム自体は商品を企画するためのアイデアには直結しません。

ちなみにバブル時代、プロダクトアウトという言葉はありません。

プロダクトアウトは、マーケットインを流行らせるための反面教師として作られた言葉です。

バブルが崩壊し、モノが売れなくなると、「会社はもっと、お客様の声を聞こう!」という風潮になりました。そこで出てきたのが、マーケットインです。プロダクトアウトは、マーケットインに変わるための、古いビジネスの発想として使われるネガティブな用語として登場しました。