ネットフリックスで配信されている韓国ドラマ「セレブリティ」は、期待以上に面白い作品でした。
この作品は、SNSで活躍するインフルエンサーの光と闇を描いてます。
主演のパク・ギュヨン演じるソ・アリは、安価な化粧品の訪問販売員でした。しかし、高校時代の友人でインフルエンサーのオ・ミネ(チョン・ヒョソン)と再会したことが契機となり、Instagram のアカウントを開設します。
そして、アリの天分の才能を見出した広告会社のバックアップもあり、アリは瞬く間にトップインフルエンサーに上り詰めます。
普通の人が、Instagramのアカウントの開設により、トップインフルエンサーになるカラクリは、リアリティを感じました。
そこがこのドラマの前半部の面白さだと思います。
確かにわたしが Instagram でフォローしている人のなかには、それまで1,000未満だったフォロワー数が、すごい勢いで 10,000 を超える人が出たりしたのを思い出しました。フォロワーを爆発的に増やすには、地道な投稿を継続しても、あまり期待できなさそうです。
はじめは、ソ・アリを格下に見ていた、他のインフルエンサーは、商品プロモーションの依頼がソ・アリに優先して舞い込むようになると、徐々に嫉妬心が芽生えます。そこから、韓国ドラマあるあるの世界観・・・きっちり詰め込まれています。
復讐、推理、サスペンス・・・ネタバレになるので書きませんが、全12話、飽きることなく、一気見してしまいました。
マーケティングの仕事の観点でこのドラマを観て、思ったことを書きます。
「セレブリティ」では、インフルエンサーによる SNS の影響力を最大限利用した消費者の購買行動を促しています。
これは、一般に SIPS(シップス)と呼ばれる「消費者による消費者のためのマーケティング」に当てはまるでしょう。
インフルエンサーは、実態としては会社から依頼されている商品をプロモーションしてます。しかし、昔ながらのテレビCMのように大々的に商品の宣伝を通じて、消費者に商品を認知させているわけではありません。インフルエンサーは、商品を供給する側には立っていません。あくまでひとりの消費者です。影響力のある消費者です。インフルエンサーは、プロモーションの対象となる商品を身に付けたり、着こなしたりして、自撮りしたり、食事をして写真や動画を SNS にアップします。
インフルエンサーのライフスタイルに共感する多くの消費者が、インフルエンサーのフォロワーとなります。フォロワーは、をつけ、 を書き込み、# をつけて拡散します。
インフルエンサーとフォロワーの相互作用によって、商品の販売をしたい会社は、短期間で爆発的に商品の話題が広がり、多数の注目を集め、市場を席巻したいと考えてます(いわゆる「バズる」状態です)。
SIPSモデル は、SNS時代の先端をいくマーケティング手法です。
実店舗を持たない中国発のアパレルブランド、SHEIN(シーイン)は、世界220カ国にアパレル商品を販売していますが、このブランドは、SIPSモデル をうまく活用しているひとつの成功例だと思います。
ただ、需要と供給の視点で見ると、SIPS は構造的な問題を抱えていると思います。
「セレブリティ」で取り上げられている、アパレル商材は、販売開始に向けて在庫をため込む、見込み生産と呼ばれる生産形態です。
通常、供給サイドは、販売開始に向けて規模の大きな広告をうちます。広告によって、商品を消費者に認知させるのがオーソドックスなやり方です。これは AIDMA(アイドマ)モデルと呼ばれる伝統的な販促手法です。
AIDMA では、販売を開始したタイミングでいちばん商品が売れることを想定します。その後は、販売動向と在庫の推移を見ながら、追加生産を実行します。
下図は AIDMA による在庫量の推移を示してます。販売開始に向けて高く積まれた在庫が、徐々に減り、追加生産をしながら、販売終了に向けて売り切ってしまうのが、理想の在庫曲線です。
一方、SIPSモデルは、規模の大きな宣伝がありません。そのため、販売開始時点の在庫はある程度、控え目にする必要があります。販売動向を見つつ、追加生産をするのは、AIDMAと同じですが、SNSでバズったら、想定以上に需要が爆発します。そうすると、急激に在庫がなくなり、欠品します。商品が欠品すると、販売動向を見極めることが出来ません(販売する商品がないので)。そのため、予測による生産を繰り返しますが、時間の経過とともに、バズった商品は終息します。そうすると、今度は過剰在庫を生むリスクが生じます。
下図のように SIPS は、欠品を招きつつ、過剰在庫を生みやすい問題を抱えてます。
SIPSを最適に運用するには、商品を追い求めないことが原理・原則だと思います。
売れそうなタイミングでパッと作って、潮時とみたら、さっさと撤退する。
ある種、刹那的な商売に向いてると思います。
刹那的・・・それは、インフルエンサーとフォロワーの関係そのものかもしれないと思います。
きらびやかなインフルエンサーが相手にしているのは、インターネットの向こう側にいる、匿名の集団です。彼らは、フォロワーとしてインフルエンサーに共感し、(高評価)をタッチしますが、共感が外れると、簡単に(低評価)を下します。
あるときの共感は、急に誹謗・中傷へと変わります。