叡智の三猿

〜森羅万象を情報セキュリティで捉える

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新人研修とケンタ君

わたしが社会人になったのは1990年です。バブル絶頂期のこの時代、日本の会社はいまよりずっと余裕がありました。

大企業は、スキルの無い、新入社員の研修をしっかり行い、育成して戦力として活用する姿勢がにじみ出ていました。

なかには「10年ただ飯論」を展開する会社もありました。

わたしが入社した会社はそこまでの余裕はありませんでしたが、それでも入社後、半年は研修の受講がメインの仕事でした。

古い記憶なので、曖昧ですが、新入社員研修はこんなカリキュラムで行われました。ちなみに拠点実習までは、新卒全員を対象にした研修、拠点実習以降は仮配属先での研修となります。わたしは社内の情報システム部門に配属されたので、拠点実習はその部門で行われる仕事に関わる研修となります。

4月 入社式  
  オリエンテーション 社会人マナー教育
    愛社精神の教育
  発表 学生時代の専攻発表
  役員による研修 経営・事業の戦略
    マーケティング
    研究開発
5月 全体実習 工場実習(三交代制)
6月~8月 拠点実習
(仮配属)
オペレーション実習(三交代制)
    プログラミング実習
    開発方法論の研修
9月 成果発表 研修の成果発表

一連の研修のなかで、実務面での中核となるのは、プログラミング実習でした。当時はCobolが全盛ですので、研修で扱う言語もCobol中心でした。基本的なコーディングの仕方はもちろん、サブルーチンへの分割を設計した構造化プログラミングの技法も研修で学びました。

研修の講師は社内で、Cobolの神様と呼ばれた、山中主任(仮名)が担当しました。

山中主任は設計書を横目で見ながら、ブラインドタッチ(キーボードを見ることなくコーディングすること)で、瞬く間にCobolを書き上げてしまうという・・・正に芸術的なプログラマーなのですが、教え方にはクセがありました。

早口のうえ、講義内容をノートに書こうとすると、直ぐに怒るのです。

いちいち、メモを取るな!頭に叩き込むんだ!

わたしは学生時代、Basicをちょっとかじったくらいのプログラム経験しかありません。インタプリタ形式のBasicと、構成の定義(下記)をしっかりと定め、コンパイルを必要とするCobolでは難易度が異なります。

Cobolプログラムの構造

わたしは「メモを取るな!」と、繰り返す、主任の考え方についていけず、ある日、こんな発言をしました。

主任、プログラミングはケンタッキーのチキンじゃないんだから、ノート見ながら作ったっていいじゃないですか!?

この発言の前日、会社の飲み会がありました。

飲み会のなかで、「ケンタッキーのチキンのレシピは、トップシークレットとなっていて、世界中でスパイスの配合を知っている人は数人しかいない。」というネタで盛り上がったのです。飲み会には山中主任も参加し、笑ってました。

わたしの頭のなかでは、メモを禁止する山中主任の発言が、コーディングのノウハウを隠蔽しようとする態度にうつり、それをケンタッキーの秘伝のレシピにたとえたのです。

わたしの発言に、山中主任は烈火の如く怒りました。

ケンタ君と一緒にするな!もう、お前は研修に出なくていい。

わたしは、研修の途中で、破門になってしまいました。

せっかく、教えていただいたCobolですが、わたしは中途半端なスキルで大した成果をあげることなく終わりました。実務でCobolのコーディングをしたのは、10本くらいかな・・・。

ケンタッキーの秘伝レシピは、営業秘密に該当します。

営業秘密を包括したのが「不当競争防止法」です。これは、企業間の競争が「公正」に行われるための法律です。

不正競争防止法の営業秘密は「秘密として管理されている生産方法、販売方法、その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義されています。

  • 秘密管理性:秘密として管理している。
  • 有用性:事業活動に有用な技術又は営業上の情報である。
  • 非公知性:公然と知られていない。

情報セキュリティの視点で特に重要なのが「秘密管理性」です。

あのとき、山中主任が教えた、プログラミングのノウハウは営業秘密になりえるのだろうか・・・。

30年前の出来事を懐かしく思い出します。