被害者の自殺と法改正の検討
5月23日、Twitterでの誹謗・中傷が原因で、恋愛リアリティ番組「テラスハウス」に出演していたプロレスラー・木村花さんが亡くなりました。
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高市総務相は、5月26日に「匿名で他人を誹謗(ひぼう)中傷する行為はひきょうで許しがたい」とした上で、発信者情報の開示を定める「プロバイダー責任制限法」について「制度改正を含めた対応をスピード感を持ってやっていきたい」と述べ、検討を急がせる考えを示しました。
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心なき誹謗・中傷による自殺という悲しい出来事に対する、政府の反応はとても迅速だと思います。
ただ、情報開示の基準を下げる場合は「私人同士の事例に限るべき」とけん制する声もあります。たとえば国民がSNSで政治家を批判したとき、政治家が発信者の個人情報を簡単に入手したら、表現の自由に対する著しい規制につながりかねません。
わたしは「誹謗・中傷により被害者が自殺をした」ことで、急速に法改正の検討をはじめたことが残念です。SNSが利用されてから、相当な年数が経ちます。その間「ネット上の誹謗・中傷」はあとを絶ちませんでした。人が亡くなってから対策の検討を開始するのは、遅いと思うのです。
「ネット上の誹謗・中傷」は、精神的・肉体的な「安全性(情報システムの利用者が身体的な危害を受けることのない特性)」への脅威です。しかし情報セキュリティは「個人を守ること」より「組織を守ること」を大事にしているようです。「個人への攻撃」が多い、この問題への対策は、後手後手に回っていると感じます。
結局、被害者は誹謗・中傷に苦しみながら、嵐が去るのを待つしかありません。社会はそれを黙認していたのです。
プロバイダ責任制限法
制度改正の検討対象である「プロバイダ責任制限法」の正式名称は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」という異常に長い名前です。
この法律ではふたつを規定しています。
- 損害賠償責任の制限:誹謗・中傷の書き込みなど、他人の権利を侵害する情報流通に関して、被害者・発信者からの損害賠償請求に対して、プロバイダーが適切な対応が取れるような免責事項を規定しています。
- 発信者情報の開示:被害者が、プロバイダーに対して発信者情報の開示請求を行う要件を規定しています。
簡単に書くと、1は誹謗・中傷の書き込みがされても、それはプロバイダーの責任ではありませんと書いてます。2は要件を満たせば、被害者に対し、加害者の情報を開示しますと書いてます。
被害者にとって重要なのは加害者の接続したIPアドレスと契約しているインターネットサービスプロバイダー(ISP)の情報を割り出すことです。
被害者は加害者が書き込んだ誹謗・中傷の記録から加害者のIPアドレス(インターネット上の住所)を入手する必要があります。その為には、誹謗・中傷された内容を保存しておく必要があります。IPアドレス情報から加害者が使ったインターネットサービスプロバイダーを割り出します。そして、インターネットサービスプロバイダーに対して加害者の個人情報の開示請求をすることで加害者を特定します。ただ、ここで厄介なのはプロバイダやデータの格納場所が海外である場合、準拠法や裁判管轄が日本とならない可能性があることです。この場合はかなり手続きが煩雑になります。
また、加害者がネットカフェのパソコンから誹謗・中傷を書き込んだ場合、コンテンツプロバイダーから苦労して割り出したIPアドレスから導かれるインターネットサービスプロバイダーはネットカフェが契約しているプロバイダーとなります。
「ネット上の誹謗・中傷」を法的に対処するのは、なかなか労力、資金、時間、根気が必要な作業です。
なお、現在検討されている新たな裁判制度では、事業者の開示情報に「投稿者の電話番号」を加えることが認められる方向のようです。電話番号が認められると、今まではSNS事業者、プロバイダーを相手に2回の裁判手続きが必要でしたが、それが1回で加害者を特定できる可能性が高くなります。
参考までに皆さんが使っているインターネットのIPアドレスとインターネットサービスプロバイダーは、ツールを使うことで確認が出来ます。
- 現在インターネットに接続しているIPアドレスの情報を確認します:確認くん
- 1で確認したIPアドレスを入力してインターネットサービスプロバイダーを確認します:WHOIS検索 | ドメインの所有者情報を簡単検索 | すぐに使える便利なWEBツール | Tech-UnlimitedWHOIS検索