鐘の鳴る丘ゲレンデで転んだ
バブル絶頂期の1980年代後半から90年代はじめ、わたしはスキーが好きで、週末になるとあちこちのゲレンデをハシゴしていました。幸い大きな怪我をすることはありませんでしたが、板が絡まって、転んで、胸を強打して、息苦しい思いをしたことがあります。それがいちばん印象に残る転倒です。しかもそれは栂池高原スキー場(長野県)の「鐘の鳴る丘ゲレンデ」でした。
https://www.tsugaike.gr.jp/winter/
ここは平均斜度8度!!広さとなだらかな斜面は、初心者〜ファミリーに最適というコースで、転倒とは無縁に思える超緩斜面です。
ところで「海馬」研究をしている、池谷裕二さんが書いた本「脳はなにかと言い訳する」に次のような記述があります。
不安、マンネリ、無気力。ビジネスマンの的である。これに関して、ケンブリッジ大学のシュルツ博士の研究が面白い。博士はサルの神経の反応を丹念に調べ、脳の奥深く、「中脳」と呼ばれる場所で、独特な活動をする細胞を発見した。餌を与えられるときに活発に反応する神経細胞である。ー(中略)ー シュルツ博士が記録した細胞は「ドーパミンニューロン」と呼ばれる神経細胞で、快楽を生み出す細胞である。餌に反応したということはサルが喜んだということにほかならない。しかし、合図の意味に気づくと、合図があれば餌がもらえて当然だと思う。もはや、そこに喜びはない。ー(中略)ー 「ドーパミンニューロン」は集中力ややる気を維持するのに重要な働きをしている。となれば、実験結果はとても重要なことを意味している。そう、「マンネリ化」は脳には「毒」なのだ。新鮮な気持ちを忘れてしまっては、もう脳は活性化しない。ー(中略)ー 日頃、顔を合わせる同僚や顧客との会話、連日繰り返される単調な仕事、通勤路の風景、家族や恋人の存在。マンネリ化は脳の天敵である。
(「脳はなにかと言い訳する」池谷裕二・新潮文庫より)
この本を読むと、わたしは中級者が楽しめる「ハンの木ゲレンデ」から、緩斜面の「鐘の鳴る丘ゲレンデ」に滑り降りた段階で「ドーパミンニューロン」が減少し、快楽と集中力がなくなり、脳がマンネリ化したことが分かります。それが転倒につながったのだと思います。
脳はなにかと言い訳する 人は幸せになるようにできていた!? (新潮文庫 新潮文庫) [ 池谷 裕二 ] 価格:781円 |
この緩斜面での転倒と同じようなことが「情報セキュリティ」にも存在します。
不注意による情報漏えい
IPAでは毎年、社会的に影響が大きかったと考えられる情報セキュリティにおける事案から「情報セキュリティ10大脅威」を発信しています。そして2020年も「不注意による情報漏えい(規則は遵守)」が7位にランクインしています。
www.ipa.go.jp
不注意の事象として多いのが「メールの誤送信」です。本来送るべき相手とは違う相手にメールを送ってしまい、大切な個人情報を勝手に他人に漏らしてしまうのです。ビジネスでメールを使うのは当たり前の行為ですが、この誰にでも出来そうな仕事に「情報セキュリティ」の脅威が潜んでいるのです。
「メール誤送信」が厄介なのは、ヒューマンエラーであり技術的対策は難しく、マンネリ化した人間の脳の不注意は、人的対策で減らすことしかないことです。しかし、日常的にメールを多用しているビジネスマンは、一件一件のメールを大切にしながら送信する志向が欠け、脳のマンネリ化が止まらないのです。
この対策として、例えば業務で使用しているメールアプリでもっとも使われているOutlookであれば、受信者を選択する際に、組織外であれば添付のようなメッセージが出ます。ここで本当にメールを送る前に指差(しさ)確認をすることが考えられます。指差確認は安全確認の基本原則のひとつです。電車の車掌さんがホームに出て「乗降よーし!」と言って、指で前方を指してから扉を閉めますが、あれが指差確認です。ともすれば、マンネリになるドアの開け閉めも指差確認をすることで、緊張感を高め、脳は活性化し、きっと「ドーパミンニューロン」が出ているでしょう。
実際にメールを出すときに声を出すのが憚られるのであれば、せめてメール画面の宛先に指をあて、心の中で「宛先よーし!」と叫んでみては如何でしょうか!?実際、わたしは自分がそそっかしいことを知っているのでそうしています。