叡智の三猿

〜森羅万象を情報セキュリティで捉える

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「おいしいごはんが食べられますように」を読んで

今年(2022 上期)の芥川賞は候補作(下記)となった作家がすべて女性ということで話題になりました。

  • おいしいごはんが食べられますように/高瀬隼子
  • 家庭用安心坑夫/小砂川チト
  • ギフテッド/鈴木涼美
  • N / A/年森瑛
  • あくてえ/山下紘加

本のタイトルは選考には影響しないと思うのですが、いちばん芥川賞のイメージ(難解な純文学だと思ってます)から遠そうな「おいしいごはんが食べられますように」が選ばれました。

装丁も癒しを与えるイラストで、きっと「おいしいものを食べて、ギクシャクした人間関係を修復する物語」なんだろうなと思いました。


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物語はとある食品ラベルの製造会社の埼玉支店で繰り広げられます。

主要な人物は、二谷さん、芦川さん、押尾さんで、彼らの相関図はこんな感じです。登場するどの社員も新卒でこの会社に入った様子で、このあたりは古き良き昭和型のメンバーシップ雇用なんだなと思いました。

文体は平易ですいすい読めるのですが、最後まで読み進めても「おいしいごはんが食べたい!」という気分にはなれませんでした・・・。

その意味で、期待を裏切る作品でした。

わたしは、情報セキュリティ的な視点でこの物語を読んだのですが、押尾さんの状況が気になって仕方ありませんでした。

押尾さんは体育会系気質で仕事ができます。周囲からは明るく元気な強い社員に思われているようです。

そして、押尾さんの先輩は、仕事はできないけど、愛嬌たっぷりで手作りのお菓子を職場に配る芦川さんです。ちょっと弱そうで、周りが守ってあげたくなる人です。

職場では芦川さんの作ったお菓子を皆が褒める雰囲気が醸成されてます。仕事ができないにも関わらず、押尾さんよりも芦川さんが評価されているように見えます。

その状況からー

「いつか押尾さんは不正な行為をするんじゃないか!?」

と、ヒヤヒヤした感覚で本を読みました。

組織で不正行為が成立する条件として知られているのが「不正のトライアングル」です。不正が行われる条件は「機会」「動機」「正当化」の3つの要因がそろった時に発生するとされます。

  • 機会:不正が可能な状況を指しています。
  • 動機:不正を犯す必要性を指しています。
  • 正当化:不正行為をを正当化する志向性を指しています。
不正のトライアングル

押尾さんは仕事ができるので、業務に必要な情報をコントロール出来そうです。誰よりも早く出勤し、残業もしてます。悪いことをしても、同僚の目にはとまらないでしょう。

押尾さんは不正行為をする機会に恵まれています。

そして、「仕事が出来るにも関わらず、仕事が出来ない先輩(芦川さん)より評価が低い」ことが、押尾さんの不正行為を正当化する理由になると思いました。

押尾さんの相談相手になっている先輩社員の二谷さんは、押尾さんのふるまいに共感するものの、適切なアドバイスはしていないようです。押尾さんとは距離感をとった相槌をしているように見えます。

この組織全体が脆い人間関係で、危うさを感じます。

仕事が正当に評価されない職場は、仕事でお互いを助け合うことをしません。

昭和型のメンバーシップ型の雇用であれば、なあなあの評価で構わないとされた時代はとっくに終わってます。

「きっと、押尾さんは組織を崩壊させる不正を犯すはずだ!」

わたしの予想がどうだったか、、是非、本を読んで確かめて欲しいと思います。