叡智の三猿

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「小さな世界」の全体最適(後半)

前回のブログでは、IT化プロジェクトで「全体最適化」という言葉を聞くと、イッツ・ア・スモールワールドの世界を連想すると書きました。
www.three-wise-monkeys.com


営業も開発も製造も経理も人事も、楽しいこともあれば、つらいこともある

それぞれの部門同士が助け合う小さな世界

世界はせまい会社は同じ、会社はまるい、ただひとつ



世界全体から、国を捉えると、国は全体のなかの部分です。その国の指導者の役割は、自分の国と国民を守ることです。ですので、国の指導者は、部分最適(全体最適の対義語)を追求しています。10月4日に新総理になるであろう、岸田さんも当然、第一に考えるのは、日本と日本国民です。

ただ、世界のすべての国が、自国の部分最適を追求しても、世界全体は平和にはなりません。前回の記事で紹介した動画(世界の過去1000年間に起きた戦争をビジュアル化した映像)を見ると、そのことが如実に分かります。繰り返しますが、経済問題で国と国がいざこざを起こし、庶民の生活が苦しくなると、権力者は反権力に向かわぬよう、相手国を敵として煽ります。そして怒りのパワーが戦争へ突き進むことを歴史は証明しています。
youtu.be

全体最適は、部分最適の和ではありません。

  • 全体最適化 ≠ 部分最適化の総和

全体最適という言葉は、耳障りはいいのですが、そもそも達成することが出来ない命題かもしれません。

国の指導者が自国や国民の利益より、世界の利益を優先することはありません。それと同じく、会社の部分である各部門の長は、その部門にとって最適な状態を築くことを第一の職務としています。全体最適といわれても、他の部門を助ける優先順位は低いと思います。

ビジネス情報誌を見ると、全体最適化の実現によって、収益をあげている会社の事例が紹介されています。確かに取り上げられている会社が収益をあげているのは、事実でしょう。ただ、それは各部門同士が助け合った結果とは思えません。全体最適が実現した状態とは、利害関係が異なる部門と部門が争った結果、もっとも強力なチカラを持った部門が、全体を支配した結果と見るべきでしょう。

イッツ・ア・スモールワールドに描かれる美しい全体最適の姿は本当に観られるのでしょうか。
www.youtube.com

人間は権限を持てば持つほど、欲をむき出しにするでしょう。論理的思考力を兼ね備え、優秀な成果を発揮し、部門の長になった人物でも、権限を持つと自分の欲を満たすことが、論理的な意思決定よりも優先されると思います。

たとえば、営業部門はお客様との関わりが多い部門ですので、顧客情報を多く抱えています。そのなか、営業マンが自社の顧客情報をつい外部に漏らすかもしれません。あるいはお客様と営業マンが手を握って、過剰な接待を行うなど、会社の倫理規定に反する行為をするかもしれません。内部統制の観点から、営業部門の長は部下の情報漏洩や不正の兆候を発見したら、直ちに経営者および取締役会に報告するべきでしょう。

内部の不正行為は、部門内で収められる課題ではありません。不正は「機会」「動機」「正当化」の3つの要因が揃ったときに発生するという、不正のトライアングルという理論があります。

  • 機会:不正が可能な状況を指しています。
  • 動機:不正を犯す必要性を指しています。
  • 正当化:不正行為をを正当化する志向性を指しています。
不正のトライアングル

不正が起こる要因を発生させないようにするには、会社全体として不正を見逃さない、リスクを撲滅する取り組みが必要です。

しかし、部門の長は、部下の不正を経営層に報告をすることで、自分の管理責任を問われることを恐れるかもしれません。そうすると、報告するべき事案を隠蔽する可能性があります。しかしそれは、自分が管理する部門の最適化を実践しているとはいえません。自分の保身が、部門の利益より優先しています。

欲を抱えた人間の意思決定は、必ずしも論理的ではありません。全体最適を語る以前に、部分最適さえも充分に果たすことが出来ないかもしれません。

これからAIがもっと進化し、重要な判断・意思決定をAIが担うようになれば、状況は変わるかもしれません。偏見、私利私欲のないAIが、人間よりも論理的な意思決定に向いていそうです。そうすると、全体最適化の公式がこのように変わるかもしれません。

  • 全体最適化 ≒ AIによる部分最適化の総和