叡智の三猿

〜森羅万象を情報セキュリティで捉える

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ITエンジニアのキャリアパス

わたしが大学を卒業して、会社員になったのは 1990年です。

当時は IT(Information Technology) という言葉は一般的ではありませんでした。わたしが入社した会社は、繊維・化学系メーカーなのですが、わたしが配属されたのは、コンピュータ部門でした。

わたしは、化学系の学生で、大学時代にコンピュータを操った経験は、ほぼゼロでした。

不良な大学生活を送っていたので、授業にあまり出席していませんでした。当時、数少ないコンピュータを使った情報管理で、おぼろげな記憶があったのが、SMILES表記と呼ばれる化学構造式の情報管理法です。

化学構造式は絵で書くと、イメージがしやすいのですが、コンピュータにとっては記憶しにくい情報です。

一方、分子式は、文字列ですので、コンピュータでの管理も容易です。

しかし、分子式だけの管理だと、下記のような同じ分子式でも構造が違う場合に、コンピュータでの管理が出来ない問題があります。

  • C2H6O(エタノール)
  • C2H6O(ジメチルエーテル)

エタノールとジメチルエーテルは、同じ分子式です。両者の違いは構造式を管理しなければ分かりません。このような、同じ分子式を持ちながら、構造の異なる化合物を異性体と呼びます。

エタノールとジメチルエーテルの構造式

SMILES表記は下記のような一定のルールに沿って、化学構造を文字列へと変換する方法です。

  • 原子は元素記号で表記する。2文字の元素は、[]のなかに入れる。
  • 水素原子は省略する。
  • 隣接原子は隣に記す。
  • 二重結合は「=」三重結合は「#」で表す。
  • イオンなどの結合のない部分同士は「.」で分ける。

SMILES表記を使うことで、エタノールとジメチルエーテルのような異性体の関係にある物質でも、下記のように構造の違いを管理することができます。

  • CCO(エタノール)
  • COC(ジメチルエーテル)

わたしはコンピュータ部門に配属の辞令を受けたとき、真っ先にイメージしたのは、化学物質をコンピュータで読み取れる情報を生成する仕事だと思いました。

しかし、コンピュータ部門に配属されて、先輩から渡された、教本は「Cobol(コボル)」というプログラム言語の書き方を解説したものでした。本のどこを見ても、化学を連想するものがありませんでした。OJTでも扱ったのは、例えば、得意先コードを入力したら、月別の売上が表示されるような、事務的な内容を検索するプログラムをつくる仕事でした。

はじめて自分がメインで担当したアプリケーションは、入社後1年たったときで「先日付小切手」を管理するシステムでした。先日付小切手とは、振出日を実際に振り出した日より先の日付にして振り出した小切手のことです。

このアプリケーションは、当時としては目新しかったRDB(リレーショナルデータベース)を使い、パソコンのスタンドアロンで開発しました。システムは、RS-232C 手順方式で、手形発行機とつなげて、小切手を発行するために作りました。

ちなみにパソコンOSは、 OS/2 というマルチタスクが可能なOSでした。これは、かなり斬新なOSでした。わたしは、MS-DOSの後継は OS/2 だと思ってたのですが、残念ながら OS/2 の環境でアプリケーションを動作させると、動きがのろく、大量のデータを処理するには不都合がありました。結局、MS-Dosの後継は、OS/2 よりも機能面では劣るのですが、アプリケーションの動きはサクサクする Windows が勝ち取りました。

こんな感じで自分のキャリアを重ねるなかで、化学は遠のいていきました。

わたしは、たいそう戸惑いました。

大学の同期は、わたしと同じく、化学系のメーカーに就職して、生産技術であったり、研究開発であったりと、化学に関わりのありそうな仕事をしています。でも、わたしは社会人になった途端、化学から足を洗ったような感じになりました。

だから、入社後、しばらくして大学の同期で集まったとき、仕事の内容を説明する際、どう話していいかがイメージできませんでした。

俺はいまは化学とは関係ない、コンピュータに関係した仕事をしているんだよ。

そうなんだ、お前は文転就職したんだな。

わたしのなかでは、就職で文転(理系から文系に鞍替えすること)したイメージは無いのですが、大学同期は文転と映ったようです。

今日、コンピュータを扱う仕事は、ITエンジニアと呼ばれます。そして、この仕事は多数の文系出身者がいる仕事です。

わたしは就職活動をしている学生と話をする機会があるのですが、彼らのなかには、コンピュータを扱ったことが無いが、ITエンジニアを目指す人が少なくありません。

そして、コンピュータを扱った経験が無くても、ITエンジニアの仕事ができるかを不安に思っている人が多数います。

ITエンジニアが技術をイメージする職種にも関わらず、採用にあたって技術的な知見を必ずしも要求されないのは、コンピュータとビジネスが密接な関連性があるためです。

新卒で入ったエンジニアのたまごは、その後の業務経験を通じて、知見を得ることで徐々に自分の関心が見極めされます。そして、自分のキャリアパスが描かれます。キャリアパスのベクトルは一方向ではありません。ひとつのベクトルを進むエンジニアもいれば、ベクトルを変遷するエンジニアもいます。

ITエンジニアのキャリアパスイメージ

わたしは、ITの仕事を30年以上、経験してますが、主観に囚われず、客観的にみてもこの仕事はすそ野が広く、奥も深く、魅力的な仕事だ思うのです。