8月の広島旅行はカープの観戦が主な目的でした。
試合観戦前に広大な平和記念公園を歩くと、強い日差しに焼け付けるような暑さを感じながら、シーンと静まりかえるスピリチュアルな空気を感じました。
平和の尊さを伝えるヒロシマのメッセージとは裏腹に、どうも世界は平和から遠ざかっていってるようです。
いまはまだ、第三次世界大戦の脅威をわたしは感じてません。ただ、ロシアとウクライナや、ハマスとイスラエルなどの戦争のニュースを見ると、歴史の中の大きな転換点に来ているかなと思います。
日本人の多くは、戦争を体験していません。
中学生のとき「戦争を知らない子供たち」という歌を合唱コンクールで歌った思い出がありますが、終戦の年に生まれた人も、既に78歳です・・・「戦争を知らない子供たち」は、「戦争を知らない後期高齢者」になっています。
イメージのなかでしか存在しない戦争は、ともすれば、その深刻さを軽く感じてしまいそうです。
- 平和記念公園のオブジェに刻まれたメッセージ
- 被爆者を尊ぶ折り鶴
- 負の世界遺産となった原爆ドーム
- 原爆資料館に展示された被爆者の写真や動画
平和記念公園に来ると、被爆の実態を伝える統計情報と、情感に訴える数多くのビジュアルによって、私たちは戦争をより知ることができます。
戦争を知ることで、平和の大切さを理解し、この平和を持続するためには、どうあるべきかを模索していきたいと思います。
被爆国である日本は、アメリカによる原爆投下に対して、肯定的な見解を述べる人は、あまりいません。
一方、アメリカでは「原爆投下は、戦争終結のために必要な手段だった。」という、解釈が一般的で、学校教育に於いてもそのような授業があると聞きます。
ですので、日本とアメリカでは、原爆投下に対する歴史認識に差があります。
そして、歴史認識の違いについて、深く議論したり検証する場はあまりないと思います。
戦後から長らく、日本とアメリカが同盟国として強固に結びついているので、過去の遺恨をほじくり返して、検証することは一種のタブーなのかもしれません。
逆に言うと、日本とアメリカが原爆投下の是非をフランクに話し合えるようになれば、本当の意味での同盟関係なんだと思います。
少し古い本なのですが、「戦争論理学 あの原爆投下を考える62問(三浦 俊彦(著)二見書房)」は、数少ない、アメリカによる日本への原爆投下の是非論を検証した本です。
「論理学」と書いているので、この本はあくまで「アメリカの原爆投下が論理的に正しいか、誤っているか」を検証した本です。原爆投下が人道的に正しいかを論じてません。
原爆投下を単独の行為として捉えた場合、それが人道的に間違っていると感じる人が大半だと思います。これは、原爆投下に限りません。今年は、ガザ地区への空爆で、多数のパレスチナ人の女性や子どもが死んだり、負傷する映像が流れました。それを見て、人道的でない行為だと感じない人はいないと思います。
アメリカによる原爆投下を誤っていると考える人は、それが人道的に間違っている行為と考えるからです。「戦争論理学」では、原爆投下を人道的に誤っていると考える「否定派」に対し、戦争を終結させる為の手段として、原爆投下は有効だったと論じる「肯定派」の見解を重ねてます。
この本では、原爆の悲惨さをいまに伝える原爆資料館に代表されるビジュアル情報についても論述されてます。
それは「否定派」が「原爆で焼け焦げた街や、黒焦げとなった被爆者の写真を見ても、『肯定派』は、原爆投下が正しかったと、言えるのか!?」という、意見に対する反証です。
「肯定派」による主張の一部を引用します。
肯定派の本当の主張は「核戦争の恐ろしさを実感するのに実体験やビジュアル資料など要らない、統計数字と想像力さえあればよい」というものである。「そうではない、リアルなビジュアルが重要だ、倫理的認識の質を変えるほど重要だ」と言い張る否定派は、予防ワクチンとしての広島・長崎の惨害をむしろ肯定せざるをえなくなり、自爆する運命にあるのである。
~「戦争論理学 あの原爆投下を考える62問」三浦 俊彦(著)二見書房
ここで書いている「予防ワクチン」というのは、心理学で使われる「ブーメラン効果」を指します。ブーメラン効果は、物事の結果がブーメランの飛行軌道のようにその行為をした者自身に主に負の効果をもたらす現象です。
本書では「原爆資料館があることで、世界に核戦争の脅威を伝えられる。逆に言うと、広島・長崎の原爆被害がなければ、私たちは核戦争の恐ろしさを実感できず、今ごろ安易な核兵器使用を許してしまっていたかもしれない。」という、否定派に対する肯定派の論破の材料として振り返ってくることです。
わたしは、アメリカの広島・長崎への原爆投下は間違っていると思います。
ただ、惨劇にあった広島や長崎が恒久平和を祈念するため、悲惨な状況を伝える写真や映像資料をいまも残しているのは素晴らしい判断だと思います。なぜなら、そういう苦しく、忌まわしい事実の痕跡は完全に消してしまう判断をしてもなんらおかしくないからです。
広島の平和記念公園にある、原爆ドームや原爆資料館は「太平洋戦争を終わらせる為の原爆投下」を断罪することが目的ではありません。
「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」
このメッセージは、世界のすべての人々が原爆犠牲者の冥福を祈り、人類が再び核兵器を使用しないよう、人と人との憎しみを乗り越えて、平和を実現しようというものです。
いま、日本には多くの外国人観光客が訪れています。
インバウンド向けの集客支援事業を展開するTokyo Creativeが2023年に調査した「日本旅行で訪れてみたい都道府県」は、以下のようになってます。
参照:日本旅行で訪れてみたい都道府県ランキング!外国人1,006人への調査結果発表 | Tokyo Creative株式会社のプレスリリース
被爆地の広島と長崎は共にベスト10に入ってます。
是非とも、多くの人がこの地を訪れて、核兵器の恐ろしさを共有して欲しいと思います。