叡智の三猿

〜森羅万象を情報セキュリティで捉える

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「見える化」という、へんちくりんな日本語

ビジネスでは「見える化」という、へんちくりんな日本語が定着しています。

「見える化」は、仕事における問題を常に見えるようにすることで、問題が発生してもすぐに解決できる環境を実現し、さらに問題が発生しにくい環境を実現するための取り組みを目指します。

「見える化」という言葉は元々、トヨタの「アンドン」と呼ばれる工場の製造ラインに吊り下げられている掲示板の特徴を指している社内用語の位置づけでした。

「アンドン」は、各工程の機械が正常に稼働しているか、停止しているをランプで表示したものです。製造現場の管理者は、「アンドン」を見ることで、現場の状況が分かる仕組みになっています。

アンドンのイメージ

元々はトヨタの社内用語的な位置づけだった「見える化」を広く、ビジネス界に広めたのは、『見える化~強い企業を作る「見える」仕組み(遠藤功/東洋経済新報社)』というビジネス書です。


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2005年に発売されたこの本はいまでも売れ続けているビジネス書です。ビジネス書の多くは時流のなかで粗製乱造され、直ぐに読まれなくなるのが常だと思うのですが、この本はロングセラーになっている点で特異な存在だと思います。

少し話が脱線しますが、最近は「見える化」と似たような語感を持つビジネス用語として「仕組み化」というのが注目されてます。

「仕組み化」というのは、組織で問題が起きたとき、人を責めるのではなく、業務ルールをとことん改善しようというビジネスの考え方です。

「仕組み化」について書いた本もベストセラーになってます。


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「仕組み化」の考え方は確かに共感するのですが、これから5年先、10年先と、、「仕組み化」という言葉がビジネスで定着するかと、問われるとその可能性は低いと思います。

ビジネス用語は、使い方が難しく注意が必要です。時流に乗っていれば、その言葉は大いに使えるのですが、時代遅れになると、その言葉を使うこと自体で、まわりからイケてないビジネスマンと見られます。

ホワイトボード、「写メ」してSlack で共有しておいてね。

わかりました。写真を撮って、Slack で共有します。

部下がこんな感じで、機転を利かせた対応ができるとありがたいですね。

話を「見える化」に戻します。

わたしも ITエンジニアとして、「見える化」のシステム機能要件を考える際、『見える化~強い企業を作る「見える」仕組み』は大いに参考になってます。

ただ、この本には一点だけ、わたしが読んで残念に思う記述があります。

それはある意味「見える化」の阻害要因となりうる、「情報セキュリティ対策」に関わる部分の表現です(下記)。

もちろん情報のセキュリティに対する対策はしっかりと施されていなければならない。しかし、セキュリティの問題がボトルネックになって、「見える化」が進まないというのは本末転倒だ。「オープンにする」という大きな流れの中で、アクセス権やセキュリティ対策を講じることが必要なのである。

この表現は、情報セキュリティの問題を軽く捉えていると感じます。「見える化」>「情報セキュリティ対策」という解釈が出来てしまいます。

わたしは逆だと考えます。

何故なら仕事の「見える化」が出来ていない状況は、経営上の課題ですが、そのことで、会社の経営危機をもたらすことには直結しません。

しかし、「情報セキュリティ」のインシデント(情報漏えい)が発覚し、機密情報・個人情報が外部に流出したら、会社の信用は地に堕ちます。

単に信用が地に堕ちるだけでなく、情報を漏えいさせた会社は金銭的な責任を負う可能性があります。もし、漏えいした情報が悪用されて金銭的な被害が発生した場合は、その金額を支払う責任があるでしょう。また、情報漏えいに対する過失責任として、大きな損害賠償請求されても不思議ではありません。

すなわち「情報セキュリティ」のインシデントが発生したら、最悪会社が倒産してしまうことを考えなくてはいけません。

「情報セキュリティ」の対策をしっかりすることは、会社を経営する為の前提条件だと理解するのが正しいと思います。前提条件を守ったうえで、「見える化」を進めていくことが必要だと考えます。

そういう観点でいまの「見える化」の現状は、課題があると思います。

例をあげます。

下記はあるスーパーマーケットに設置している「お客様の声をお聞かせ下さい」という、アンケートです。

アンケート用紙は誰でももらうことができます。来店客はアンケートに「店を利用した感想」や「他店との違い」を記入し、店に設置された箱に入れます。お客様の声は、「掲示を了承しない」に〇を入れない限り、回答提示ボードに掲載される仕組みとなっています。

これは、典型的な「見える化」の実践例です。

顧客起点は経営の本質です。

店舗にとっては、「お客様の声」が「見える化」されることで店舗経営を改善するきっかけになります。また、回答提示ボードには、「お客様の声」に対する店からの回答が添えられて、掲載されます。このことで、来店するお客様にとっても「お店の姿勢・店舗運営の考え方」が「見える化」される仕組みになります。

ただ、ここで気になるのは、アンケートの下段に、お客様の名前、性別、電話番号、年齢、メールアドレス、住所といった、お客様の個人情報を記載する欄があることです。

個人情報は当然ですが、回答提示ボードに公開してはいけません。

個人情報とは、氏名、住所、性別、生年月日、電話番号、勤務先など個人を識別できる情報や、ほかの情報と組み合わせることで個人を特定できる情報をいいます。

【個人情報の例】

  • 基本情報:氏名、住所、性別、生年月日、国籍
  • 家族情報:親族、婚姻歴、家庭状況、居住地
  • 社会情報:職業、学歴、資格、賞罰、成績
  • 経済情報:資産、借金、納税


個人情報保護法により、会社は「個人情報」を適切に保護することが定められています。

このアンケートは「見える化」するための「声」を記載する欄と、絶対に「見せてはいけない」個人情報を記載する欄が同居しています。そもそも「声」に対するお店からの回答は、回答提示ボードに掲載することで「見える化」されます。個人にお店から連絡を取る必要はありません。個人情報を収集したいとするお店の気持ちは理解できますが、アンケートに個人情報が記載されることで、このアンケートは、厳格な管理をしなければならなくなります。

  • アンケートに個人情報の記載欄を設けても「見える化」は促進しません。
  • 個人情報が無くとも「お客様の声」に回答することは可能です。
  • アンケートの厳密な管理が出来なければ、個人情報の漏えいにつながるリスクが高くなります。

「見える化」は「情報セキュリティ対策」が、しっかり施されている前提にたって進めるべきかと思います。