叡智の三猿

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「くよくよするなよ」の二重否定

歌手であるボブ・ディランが、ノーベル文学賞を受賞したときは、世間から大きな驚きと多少の違和感をもって受け止められました。

ノーベル賞の選考は秘密裏に行われ、その過程は受賞の50年後に公表されるとのことです。ボブ・ディランが受賞したのは2016年なので、選考過程が公表されるのは2066年ということですね。うーーん・・・。

難解と呼ばれるボブ・ディランの歌詞です。歌のなかで頭に残るフレーズはいくつもありますが、歌詞全体を文学的に解釈することは、わたしには出来ません。

そもそも英語文学を日本人が英語文学として味わうのは難しいと思います。もちろん、逆も正です。日本文学を外国人が日本文学として味わうのは難しいと思います。

与謝蕪村の俳句ー

菜の花や月は東に日は西に
素晴らしい俳句ですよね。

大地に広がる黄色い菜の花の世界があり、薄闇の空にはオレンジの太陽と黄色い月が対比する世界があります。ふたつの世界をつなぐ空間は恐ろしいほどの静寂に包まれていることでしょう。ーーそんな感想をわたしは持ちます。

これを英語俳句で表現するとー

rape blossoms!

the moon is in the east,

the sun is in the west

となるでしょう。

句の流れを切ることで、世界を分ける「切れ字」は、感嘆詞「!」によって代用してます。英作文としてはいいと思うのですが、英語圏の方がこの英語俳句を読んで、与謝蕪村の原句から想像される世界観を共有出来るかは疑問です。

なんとなく、わたしは英語句の方を読むと、静寂感でなく喧騒感を感じます。夕方、観光名所となっている菜の花畑に訪れた人々が「うわー、菜の花!綺麗!」と、歓声をあげている様子を想像します。

国と国の言葉のギャップと言葉から、生まれる世界観のギャップは違うものだと思います。AIがさらに進化して、世界観のギャップまでを埋めることができるようになればすごいことですね。もしかしたら、昔からいまも続く世界中で起きている戦争・紛争をなくすかもしれません。

今使えるフリーの機械翻訳で、翻訳の精度を見てみたくなりました。

題材に選んだ英語は、わたしが一番好きなボブ・ディランの曲「Don't Think Twice, It's All Right(くよくよするなよ)」の出だしのフレーズです。

It ain’t no use to sit and wonder why, babe
このフレーズ、赤線に着目すると二重否定を使っているのが分かります。

二重否定は「否定の否定」=「肯定」と、学校英語で習いました。

あなたのことを好きじゃない、わけじゃないのよ。

日本語も同じように使いますね。まわりくどい表現ですが、要は好きということです。

しかし、ディランのフレーズは二重否定を使っていますが、肯定表現ではありません。むしろ、否定をより否定するように使ったフレーズです。しかも、is notではなく、ain’tという特殊な否定形(英語の歌詞では珍しくありません)を使っています。

あなたのことを好きじゃない、なんてもんじゃないのよ。

日本語も同じように使いますね・・・。これは、本当に大キライなんでしょうね。

ちなみに「くよくよするなよ」は、こんな歌です。この時期の荒削りのディランの歌声は圧倒的です。
youtu.be

まずは、エキサイト翻訳

エキサイト翻訳

うーーん、残念すぎる結果・・・。これだと使えないですね。かっての機械翻訳のイメージを思い出しました。

次は、GAFAの一角、Google翻訳

Google翻訳

これはある意味で期待通りの結果です。座って考えることを正に肯定しています。二重否定のロジックに従っています。

でも、このフレーズで使う翻訳としては誤っています。

そして、DeepL翻訳

DeepL翻訳

これは、すごいです。見事に否定を言い切っています。

さらに、みらい翻訳

みらい翻訳

「何を考えても無駄だよ」というのは、強い否定を感じます。DeepL翻訳では「ベイビー」が訳抜けしていましたが、みらい翻訳ではそれがキチンと表現されています。

進化をし続ける機械翻訳が楽しみです。