叡智の三猿

〜森羅万象を情報セキュリティで捉える

当サイトは、アフィリエイト広告を使用しています。

みんなが Win-Win な「クールノー・ナッシュ均衡」

クラウドサービスの競争から「ゲームの理論」 - 叡智の三猿 からのつづきです。

前回の記事では、CRMのクラウドサービスを提供するA社とB社が、「セキュリティ強化」若しくは「操作性の向上」の機能を充実させることで、増えるであろう顧客数を「ゲームの理論」で使われる「利得表」を使って書きました(下図)。

  B社
セキュリティ強化 操作性の向上
A社 セキュリティ強化 (30,30) (60,40)
操作性の向上 (40,60) (20,20)

この表では、既存のクラウドサービスに「セキュリティの強化」を行うことで、「セキュリティの強化」を希望する60社の顧客を新たに獲得するとしてます。いっぽう「操作性の向上」を行うことで、「操作性の向上」を求める40社の顧客を新たに獲得するとしてます。A社とB社がともに「セキュリティ強化」を行うと、60社の顧客を奪い合うので、30社づつの痛み分けになります。

利得表の括弧内の値に注目します。二つの数字を足し算すると、赤字の領域は合計が 100社 となります(下図)。これは、黒字の領域の数字を合計した値よりも大きいことが分かります。

  B社
セキュリティ強化 操作性の向上
A社 セキュリティ強化 (30,30) (60,40)
操作性の向上 (40,60) (20,20)

A社が「セキュリティ強化」を行い、B社が「操作性の向上」を行う(あるいはその逆ーーA社が「操作性の向上」を行い、B社が「セキュリティ強化」を行う)と、CRM市場全体の獲得顧客数が Max になると読めます。これが経済的にはもっとも都合のよい(A社にとってもB社にとっても戦略を誤っていない)状態です。

この状態を「クールノー・ナッシュ均衡」と呼びます。簡単に解釈すると、「クールノー・ナッシュ均衡」は、競争している企業同士も、商品を買う顧客も、経済(社会)も、みんなハッピーで Win-Win という理想的な状態です。

「クールノー・ナッシュ均衡」は、経済学の入門書で以下のように定義されています。

クールノー・ナッシュ均衡

経済学・入門第3版 (有斐閣アルマ) [ 塩沢修平 ]

価格:2530円
(2024/1/28 14:19時点)
感想(0件)


ナッシュ均衡とは、他のプレイヤーが戦略を変えない限り自分も戦略を変える誘因がないような戦略の組み合わせ。クールノー均衡はその特別な場合で、複占において、お互いに相手企業の生産量を所与したときの最適生産量の組み合わせ。(有斐閣/塩澤 修平)

A社が自社のクラウドサービスを強化するにあたって、B社のプロダクト戦略が分かっていれば、望ましいことです。しかし、お互いの企業はライバルです。機密情報となる戦略を交換しあうことは通常ではありません。

一方、お互いの会社が同じ機能をリリースすることによる「顧客獲得の痛み分け」は避けたいところです。

A社が戦略を考えるにあたって、ライバルであるB社の動きはなるべく知っておきたいと考えます。もちろん、不正な方法で情報を得るのはご法度です。

とりあえず、A社はB社のクラウドサービスの顧客になれればベストだと思います。B社のプロダクト戦略を知る上で、実際に提供されているB社のプロダクトを顧客として使うので、情報収集に最適な手段です。B社の参画する展示会やウェビナーを通じて、情報収集するのもいいと思います。

また、B社の取引先を知ることで、得られる情報もあるはずです。各企業のホームページには、主要な取引先が掲載されていたり、協業してニュースリリースを掲載していることもあります。ライバル企業の取引先を知ることで、企業が何の技術を重視しているか、何を研究対象としているを知るきっかけになります。

B社の社員をA社の社員としてスカウトするのは、B社の企業活動を妨害させています。わたしは望ましいとは思えないのですが、スカウト行為自体が不正とはいえません。そもそも、日本国憲法では、個人の職業選択の自由は保障されています。また、昨今の風潮で「ジョブ型雇用」を政界・財界が一体となり進めています。B社で行っている仕事をより高待遇でA社に転職して仕事をするのは「ジョブ型雇用」の目的にも即しています。

A社はB社の情報を収集し、B社のプロダクト戦略を「先読み」します。そして、自らの戦略をたてます。そのとき、失敗しない戦略が「クールノー・ナッシュ均衡」に持ち込むことです。

B社が「操作性の向上」を選択するなら、A社は「セキュリティ強化」を選択します。

この場合、A社は60社の顧客を獲得できます。もし、B社と同じく「操作性の向上」を開発すると、A社は20社しか顧客を獲得できません(下図の赤字部分)。

  B社
セキュリティ強化 操作性の向上
A社 セキュリティ強化 (30,30) 60,40)
操作性の向上 (40,60) 20,20)

もし、B社が「セキュリティの強化」を選択するなら、A社は「操作性の向上」を選択します。

この場合、A社は40社の顧客を獲得できます。もし、B社と同じく「セキュリティの強化」を開発すると、A社は30社しか顧客を獲得できません(下図の赤字部分)。

  B社
セキュリティ強化 操作性の向上
A社 セキュリティ強化 30,30) (60,40)
操作性の向上 40,60) (20,20)

上記の例から分かるのは、A社にとって絶対的な戦略はないことです。A社はB社の戦略を読むことで、自らが最適と思える戦略を選択してます。これはポーカーと同じくゲームそのものの本質です。

(つづく)