叡智の三猿

〜森羅万象を情報セキュリティで捉える

疎結合というトレンド

前回は「2025の崖」の問題と、SAP ERPを保持し続けるリスクについて書きました。
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まとめると、2000年代に一世を風靡したERPは、密結合という特徴があります。密結合のシステムは拡張性に難点があり、変化の多い市場環境に迅速に対応するのが苦手です。Webアプリケーションがシステムの主役になって以降、密結合よりも疎結合のシステムの方が優れているとみなされています。

疎結合とは、2つのシステムが緩やかに結びついた状態をさします。疎結合なシステム間の連携を果たすのがAPIApplication Programming Interface)です。

たとえば、B2B向けとB2C向けに商材を販売している会社があり、B2B向けにはSalesforceを使って商談管理を行い、B2C向けにはAWS上にECサイトを構築しています。SalesforceECサイトには、商品や在庫情報を管理する自社開発のシステムとデータ連携させる必要があります。会計はマネーフォワードを採用しています。会計システムは在庫システムの入庫に基づく仕入と、Salesforceで発生した請求に基づく売上、ECサイトの販売に基づく売上を連携する必要があります。

そうすると、こんなシステム連携のイメージになります。

APIによるシステム連携イメージ

APIを使うことで複数の外部サービスがあたかもひとつのシステムであるかのような連携が図られるので、開発に関わるリソースを削減できます。ひとつひとつのシステムは独立しているので、他システムの影響をあまり考えることなく追加開発をすることができます。ひとつのシステムが障害を受けても、それが長期に渡らなければ、他のシステムの運用に深刻な影響を及ぼすことはありません。

そして最大のメリットは、システム間が疎結合なので、その時々のタイミングでもっとも適したシステムを採用し、不必要になったシステムや機能は辞めたり変えたりできることです。

日々、技術は進化し、市場は変化します。進化と変化に柔軟に対応できるシステムこそ、DXに求めらる要素です。

もちろん、密結合は疎結合とは違う魅力があります。上図では、在庫管理システムと会計システムを仕入APIで連携しています。これは物品を購入した際に行われる以下の仕訳伝票を生成する目的です。この仕訳は商品の購入による資産の増加と債務を同時に発生させています。

発注・入庫・仕入・買掛のフロー(API

商品 100 / 買掛金 100

一方で、SAPでは、資産の増加と債務を分けています。資産の増加は入庫処理によって行われ、債務は請求書照合によって実現します。

発注・入庫・仕入・買掛のフロー(SAP)

入庫
商品 100 / 入庫請求仮勘定 100

請求書照合
入庫請求仮勘定 100 / 買掛金 100

多くの取引で、仕入先からの商品の入庫は日々の運用で行われますが、請求書の受領は月末など締めのタイミングで行われます。SAPでは入庫請求仮勘定という、勘定科目を用いることで、購買・在庫管理部門は会計部門にいち早く、債務の可能性を知らせます。

経営全体の活動を可視化することで、企業活動のPDCAを効率よく回していくのは、密結合であるERPシステムの大きな目的です。

また、密結合のシステムはリソースを効率的使うことができます。

下図はERPを構成するモジュールに対してのリソースの割り当てをイメージしています。日中は各部門の伝票処理や顧客サポートが円滑に行えるよう、実行系と呼ばれるERPの中核とCRMにリソースを多く割り当てています。一方、夜間は需要予測や需給連鎖をバッチ処理で行うSCMにリソースを割り当てています。そして月末月初は伝票処理が大幅に増加することから、ERPに多くのリソースを割り当てています。限りあるリソースを業務の用途に応じて、効率的に割り当てすることで、全体のリソースの消費を抑えることができます。

リソースの効率的な割り当て

密結合と疎結合はどちらが優れているかを比較するものではないと思います。時代が求めるトレンドが輪廻し、密と疎を行きかうのでしょうか。