スカラーとベクトル
わたしが前回のブログで伝えたかったことは3点です。
- 人間はAI並みの能力を持つことはできないと思う。
- AIは人間のような自我を持つことはないと思う。
- 人間はいまを否定し、自我を発動し続けるべきと思う。
www.three-wise-monkeys.com
今回は高校数学や物理で習った「ベクトル」を使って、このストーリーを考えてみます。
ベクトルは「向き」と「大きさ」という二つの「情報」を持っている矢印を指します。ちなみに「数」の情報しか持っていないものを「スカラー」といいます。
たとえば下の図のように「A君から500mのところにB君の家がある」というのは、スカラーです。この情報ではB君の家は円周上のあらゆる場所に存在する可能性があり、A君はどこを向いて歩けばいいかが分かりません。「A君から北東500mのところにB君の家がある」というベクトルを与えられることで、A君はどこを向いて歩けばいいかが分かるのです。
ベクトルの「向き」と「大きさ」は、会社の「方向性」と「成長」と言い換えするとイメージしやすいと思います。
- 向き=会社の方向性
- 大きさ=会社の成長
紅茶のおいしい喫茶店
設定は都内にある「紅茶のおいしい喫茶店」を運営する会社です。
現在の会社の方向性(喫茶店の運営ですね)を(図1)に示します。
0→Aが喫茶店の運営という方向性を意味します。0は事業を始めた時点(始点)で、Aは現在(終点)です。
youtu.be
しかし、経営者はもっと売上を伸ばしたいと思っています。その為には接客を効率化することで、お客様の回転率を上げようと考えました。そこで考えたのがー
「従業員を増やそう」
でした。
しかし、従業員を増やしたら、人件費も増えました。残念ながら、売上の上昇ほど「収益の大きさ」は伸びませんでした。
それが(図2)のA→B'ベクトルです。
一大決心
そこで、経営者は一大決心をします。
なんと、接客用AIロボットを導入したのです!
そして、ただ効率的なだけではありません。AIロボットは一度でも来店したお客様の顔をしっかり覚えているのです。そのため、再来店をしたお客様に対してはー
「またご来店を頂き、ありがとうございます。」
と言って、おもてなしをしました。
もし、お客様が広島弁を話していたらー
「ご来店を頂きありがとの。」
と言う、なんとも親しみやすいロボットに成長したのです。
お客様は喜びました。そして、リピータとなりました。経営者はもう、従業員を増やす必要がありません。それにより、人件費(固定費)の増加が抑制されました。会社の収益は大きくなり、成長が加速しました。
(図3)は、AIの導入による成長です。従業員の増やす場合(A→B')と比べ、成長の大きさの違いは一目瞭然ですね。
自我の発動
しかし、会社の成長とは裏腹に、喫茶店で働く従業員の気持ちは複雑です。
従業員は、AIロボットの補佐役以上にはなれないことを悟りました。
それでは、仕事をしている喜びを感じることができません。従業員は真剣に悩み、考えました。
これが、自我のはじまりです。自我とは現状否定です。そして、自我の発動は、ベクトルの向きを変えます。
従業員は議論しました。そして、経営者に新たなビジネスの提案をしました。
それは、都心の交通手段として、自転車が見直されていることに目をつけた「自転車のシェリングサービス」です。
喫茶店の運営と全く異なる方向性です。
こうして喫茶店の運営(0→A→B)と、自転車のシェリングサービス(0→C)という会社に二つの方向性ができました。
変化対応力
ふたつの方向性は三角形0BCという面を生みます。
変化対応力はAIにはできない、人間による自我の発動によるものです。
サービスの融合
そして、自転車のシェリングサービスと喫茶店の運営を融合した新たなサービスが生まれます。
たとえば「自転車による喫茶メニューの宅配サービス」です。
こう考えると、AIの導入で人間が不要になると悲観することはありません。能動的にアクションをとる必要がありますが、AIと人間により新たなビジネスを創造し、社会の変化に柔軟に対応できる強い会社を作れるかもしれません。