叡智の三猿

〜森羅万象を「情報セキュリティ」で語る

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筋を信じて、端の牌を疑う ― 弱者の麻雀哲学

会社関係の仲間たちが大勢集まり、麻雀大会をやりました。

まずは予選、そこを勝ち抜いた上位4名が決勝に進むという形式です。卓は「アルティマ」という全自動卓を使いました。配牌が自動でセットされる便利なやつです。「アルティマ」は、なんとなく一般名詞みたいに使ってますけど、正式にはメーカーの商品名のようです。

参加者の年齢層は実に幅が広いです。20代の若手から、定年退職をした70代まで、いろんな世代が一堂に会しました。女性も数名参加していて、賑やかな会でした。

この大会にはマナーがしっかり定められています。先ヅモ禁止、牌をたたきつけない、リーチ後のツモ牌は手牌に触れさせない、盲牌などでツモに時間をかけない、長考は控える——といった具合です。かなり細かい決まりごとがあります。ポン・チーをする際は、晒して、捨ててから取る。その際、何を捨てるかは先に決めておくという徹底ぶりです。上家が捨てた後にポン・チーをしない場合は、まずツモるのが原則で、特に上家がリーチした後は、この順序を乱さないよう誰もが気を配っていました。長年打ち込んできた方々の所作は実に美しいものです。初参加のわたしは、感心しながら、面くらいました。

この大会、強者ぞろいです。わたしのような、恥ずかしながら点数計算すらまともにできない人間には、正直かなり分の悪い戦いでした。振り返ってみますと、私の卓上での思考というのは、分かりやすいくらいシンプルです。

配牌で自分の手が良いのか悪いのかもよくわからないもんですから、「とりあえず満貫を目指す」という、心もとない指針で牌を切っていました。周りが黙々と、しかし確実に、そして先ほどのマナーを崩すことなく手を進めているのを横目に見ながら、「あ、これはもう敵わないな!?」という空気だけは敏感に感じ取ります。長年生きてきた勘です(笑)。

わたしの打ち方には、癖があります。テンパイしていても、すぐにリーチをかけずに「保留」してしまうんです。攻めるべきかどうか判断がつかないもんですから、とりあえず様子を見て、一巡待ってみる。傍から見れば「何を考えているかわからない打ち手」だったと思いますが、実際は考えていたというより、決めきれずに固まっていただけなんですけどね。ただ、この「保留」というのが、結果的に相手を少し戸惑わせていたかもしれません。何を狙っているのか読めない相手というのは、それだけで少し警戒されるものです。

そして、誰かがリーチをかけると、私の頭の中は一気に「守り」に切り替わります💦点数計算はできなくても、私なりのリスクマネジメントがあります。リーチがかかった以降、各家がどの牌を切っているかを見て、それに合わせて自分も同じような牌を切る。要は「みんなが切って通っている牌なら、たぶん大丈夫だろう」という、他力本願と言われればそれまでの安全基準です。加えて、筋には忠実に従います。そしてもう一つ、リーチした人が序盤に切っていた、いわゆる端寄りの中張牌は「その人にとっては要らなかった牌」とみなして、安全牌の候補に入れます。こうした自分なりの安全策を守ることで、点数計算ができなくても、なんとか勝負を降りる判断だけはできるようにしていたわけです。

麻雀漫画の金字塔に「アカギ」という作品があります。福本伸行さんの代表作で、主人公・赤木しげるが13歳の若さで裏社会の雀荘に飛び込み、命を賭けた博打の世界で伝説的な強さを見せていく物語です。単なる牌の技術を超えて、極限状態での心理描写や、駆け引きの緻密さで知られる作品なんです。あの主人公の強さの本質は、牌の技術以上に相手の心理を読み、揺さぶる力にありますよね。実はあれ、情報セキュリティ分野で言う「ソーシャルエンジニアリング」の手口と同じ構造です。

たとえば、プレッシャーによる誤判断の誘発。アカギ作中では、圧倒的な態度や視線で相手を萎縮させ、正常な判断力を奪う場面がよく描かれます。ソーシャルエンジニアリングでも「今すぐ対応しないと大変なことになります」と急かして、冷静な確認をさせずに情報を引き出す「緊急性の悪用」という手口がありますが、構造は同じです。強者たちの卓には、まさにこの空気が漂っていて、私などは打ち出す前から萎縮していました。

あとは、信頼の演出、いわゆるなりすまし。卓上で「弱そうに振る舞う」「初心者を装う」ことで相手の警戒を解く戦術がありますが、これはまさに攻撃者が「IT部門の者です」「取引先の担当者です」と身分を偽って信頼させる「プリテキスティング」そのものです。先ほどの「保留」も、意図せずして似たような効果を生んでいたのかもしれません。何を考えているかわからない相手には、迂闊に踏み込みにくいものですから。

さらに、観察による弱点の特定。強い雀士は、相手の牌の切り方や仕草から手の内を読みます。攻撃者もSNSや会話から相手の趣味・人間関係・弱点を事前に調べ上げ、会話に自然に織り込んで信頼を得ます。私が実践していた「捨牌を見て合わせる」「端の中張牌を安全とみなす」という判断も、いわば相手の行動ログから安全性を推測する、地道な情報収集そのものだったのかもしれません。厳格なマナーの下で打つ強者たちは、所作の乱れひとつなく淡々と手を進める分、余計な情報を漏らしません。だからこそ、わずかな捨牌の傾向だけが、頼れる手がかりになるわけです。

最後に、私が実践していた「ベタ降り」も、ソーシャルエンジニアリング的に見ると実は興味深いものです。攻撃者が「これは危険だ」「足がつきそうだ」と察知した瞬間に手を引き、痕跡を残さず静かに退くのと同じで、私も「今日はこの局、深入りしない方がいい」という空気を読んで、筋と場の情報だけを頼りに静かに身を守っていたわけです。派手な攻めはできなくとも、危険を察知して即座に撤退する判断力だけは、実は立派なセキュリティ意識と言えるのではないでしょうか。

結果は予選敗退でしたが、強者たちの心理戦を間近で浴びながら、負けを最小限に抑える「守りの美学」だけは、少し身についた気がしています。次回への教訓を胸に。

みんなの情報セキュリティでは、不審な電話や怪しいメールが来たら、わたしが卓上で感じたような「これは危ない」という直感力を養うことが大切なんだと思うのです。