叡智の三猿

〜森羅万象を「情報セキュリティ」で語る

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「恋愛細胞」はゼロデイ脆弱性だった ―『21世紀の大君夫人』と『ユミの細胞たち』を見終えて

韓国ドラマ「21世紀の大君夫人」と「ユミの細胞たち シーズン3」、同時並行で拝見しました。

共通しているのは、豪華なキャストと高い映像クオリティ、そしてDisney+で配信されたラブロマンスという点です。視聴前の期待感はどちらもとても高く、IUにキム・ゴウンと、それぞれに魅力的なスターが揃っていました。

ドラマを見終えてみると受けた印象はかなり異なりました。「21世紀の大君夫人」は、まず画面を見た瞬間にその豪華さに圧倒されました。王宮のセット、伝統衣装、花火のシーン、どこを切り取っても桁違いの制作費がかかっていることが伝わってきます。これは日本のドラマでは到底作れないなと思いました。「ソンジェ背負って走れ」に続き、ピョン・ウソクの存在感も申し分ありません。韓国エンターテインメントの底力を改めて感じさせられました。

ただ中盤までは登場人物の心理描写が伝わりにくい印象がありました。それが、ラブラインにのめり込めないまま進んでしまった感もありました。愛読してる「韓ドラ そら豆のブログ」に「寝落ちしてた?と戻して見直しても、たいしたセリフでもなく」のような記載があり、深くうなずいてしまいました。まさにその通りで、映像の美しさと脚本の物足りなさが最後まで同居していた作品でした。

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それでも後半から最終回にかけては、イアン大君が王冠の重みを背負う決意をする場面や、権力をめぐる政界と王室の対立の決着など緊張感のある展開が続き、最後はしっかり盛り上がりました。完走してよかったと思える締めくくりでしたが、あの後半の熱量が序盤からあれば、もっと夢中になれたのに、というのが正直な感想です。

一方「ユミの細胞たち」は全シリーズを通じて面白い体験でした。細胞というアニメーションの仕掛けによって、登場人物の心の動きがこれほどまでに丁寧に伝わるドラマは貴重です。ドラマが進むにつれ、細胞たちのキャラクターに、すっかり親近感を覚えました。恋愛細胞が久しぶりに目を覚ましてそわそわする様子や、理性細胞が必死にブレーキをかけようとする場面など、「これ、自分の中でも起きてる!」と、笑ってしまうことが何度もありました。

細胞を見ながらふと思ったのですが、これを「情報セキュリティ」の観点から見ると、人間というのは実に脆弱なシステムなことが分かります。どれだけ理性細胞がファイアウォールを張り「この接続は許可しません!」と警告を出しても、恋愛細胞がゼロデイ脆弱性をついてシステムに侵入してくる。しかも厄介なことに、そのウイルスは本人が気づかないうちに静かに感染を広げ、気がついたころには心臓細胞がどんどこ太鼓を打ち鳴らしてシステム全体が大パニックに陥っている。

イヤイヤ細胞が懸命にアンチウイルスソフトを走らせても、スンロクというウイルスはそのたびに、変異して突破してくるウイルスです。セキュリティエンジニアが見たら「このシステム、根本的に設計が甘い!」と頭を抱えることでしょう。それが人間の愛おしさでもあるのだと、ドラマを見て思いました。

シーズン1から3まで振り返ると、男性主人公では、スンロクが一番でした。わたしのような男から見ても、あの不器用な誠実さは共感できるところが多く、一日の終わりにいちごクリームたい焼きひとつ譲るゆとりもないほど消耗しているのに、それでもユミのことが気になってしまう。そのどうしようもなさがリアルで好ましかったです。最初のとっつきにくさから一気に心をつかまれるあの落差こそがスンロクの最大の魅力です。「こういう不器用な生き方、わからなくもない!」と、肩入れしてしまいました。

シーズン1のウンについては、誠実で申し分のない男なのですが、あまりに真っ直ぐすぎて、感情の引っかかりが薄く、スンロクほど心に刺さらなかったというのが本音です。良い男すぎて、かえって印象が薄れてしまうという、なんとも皮肉な人物像です。

そしてシーズン2のバビについては、正直首をかしげるところが多く、ユミに対する向き合い方や、価値観の根本的なずれが気になりました。ユミという個性の強い女性と真剣に向き合うには、覚悟も器量も少し足りなかったのではないかと思います。情報セキュリティに例えるなら、パスワードの強度が足りないまま重要なシステムに接続しようとしたようなものです。そのリスクがやがて致命的な脆弱性となって表れた印象です。ユミがあの恋愛に時間をかけてしまったのが、見ていてもどかしかったというのが率直な感想です。

普通の経理の社員から、失恋を重ねながら、ロマンス作家として成長していくユミの姿、そしてその内側で右往左往する細胞たちの姿は、「人が誰かを好きになるとはこういうことだ」と、納得させられるものがありました。全話見終わったあとの不思議な充実感は、やはりこのシリーズならではのものだと感じました。