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新大久保さんぽ ― ご飯泥棒と、街の変貌

新大久保に行きました。改札を出た瞬間から、ハングル文字の看板が視界を埋め尽くし、チーズハットグを食べる若者で溢れてます。東京のど真ん中にいながら、まるで異国の路地に迷い込んだような不思議な感覚です。1980年代、明らかにここはドヤ街でした。若者が気軽に近づく街ではありませんでした。時代の変化がとても面白い。

今回は、新大久保に複数店舗を展開する人気店「プングム本店」です。移り変わりの激しい新大久保で10年以上にわたって愛され続けてきた実力店で、こだわりのインテリアと厳選された食材でワンランク上の韓国料理を提供しています。口コミでは「新大久保で一番きれいな韓国料理店かも」という声も聞かれるほどで、実際に店内はモダンでおしゃれな雰囲気が漂い、ソファー席や半個室も完備されています。外のがやがやとした喧騒を忘れて、ゆっくり食事を楽しめる空間です。

メニューを開き、迷わず注文したのがカンジャンセウです。新鮮な海老を醤油・にんにく・唐辛子・ごま油などを合わせたタレに漬け込んだ韓国料理で、つやつやと照り輝く海老が皿に並ぶ姿は、それだけで食欲をそそります。一緒に運ばれてきたのは、卵黄・いくら・海苔・ごまをのせたご飯。海老のプリプリとした食感と、甘辛い醤油ダレの濃厚な旨味がご飯に絡みつき、あっという間にお茶碗が空に。韓国ではこうした料理を「ご飯泥棒」と呼びます。あまりに美味しすぎて、知らぬ間にご飯を食べ尽くしてしまう――そんなユーモアたっぷりの表現がぴったりな一品です。

食後、街を歩きました。韓国コスメの路面店が連なります。そして、あちこちの店先で目につくのが韓国アイドルのグッズです。缶バッジ、フォトカード、アクリルスタンド……K-POPファンにとってはまさに宝の山でしょう。しかしこれらの多くは正規ライセンスを持たない非公式品です。アーティストの写真や名前を無断使用したものが堂々と売られているのが現実で、著作権・肖像権の侵害にあたる可能性が高い商品も少なくありません。

それでも取り締まりが目立たないのは、いくつかの要因が絡み合っています。まず、韓国の事務所が日本国内の小さな店舗を一軒一軒訴えるコストをかけないケースが多く、事務所によっては非公式グッズがファンの熱量を高め、宣伝効果があると黙認しているようです。新大久保はインバウンド観光の重要スポットとして行政も活性化を後押しする立場にあり、日韓の文化交流という観点から、あえて強硬な取り締まりに動きにくい構造もあるでしょう。「誰も本気で止めたくない」という複数の利害が一致した、黙認状態と言えそうです。

著作権は「知的財産権」と呼ばれる権利群のひとつです。知的財産権は、人間の知的な創造活動から生まれた成果物を守るための権利の総称で、著作権はそのなかでも「登録不要・創作した瞬間に自動で発生する」という点が特徴です。アイドルの楽曲・写真・映像はまさにこれにあたります。

権利の種類 発生条件 具体例 親告罪?
著作権 創作した時点で自動発生 音楽・写真・映像など 原則:親告罪(※例外あり)
商標権 特許庁への登録が必要 ブランドロゴ・アーティスト名 一部非親告罪
特許権 特許庁への登録が必要 発明・技術的アイデア 非親告罪
実用新案権 特許庁への登録が必要 物品の形状・構造 非親告罪
意匠権 特許庁への登録が必要 製品のデザイン・外観 非親告罪
肖像権 人格権として自動発生 アイドルの顔・姿の無断使用 民事救済が中心

表を見ると、著作権が「親告罪」であることが取り締まりの難しさと繋がっているように見えます。しかし 2018年の著作権法改正により、営利目的かつ反復継続した著作権侵害行為は非親告罪化されました。つまり、新大久保で商売として継続的に非公式グッズを販売している店舗に対しては、被害者の告訴がなくても警察が動けるようになっています。法律の壁はすでに取り除かれているにもかかわらず、現実には取り締まりが進まないのは、それ以外の様々な事情が複雑に絡み合っているからと言えるでしょう。

新大久保の面白さは、行政が計画的に作り上げた「作られた街」ではないところです。バブル期に歌舞伎町で働いた人々が家賃の安いこの地に住み始め、コミュニティが生まれ、店ができ、文化が根づいたとされます。2002年の日韓ワールドカップや韓流ドラマ(冬ソナなど)ブームが追い風となり、K-POPの波が街をさらに塗り替えた。いわば、文化が街を「上書き」し続けてきた場所です。ドヤ街が歓楽街の周縁となり、コリアンタウンとなり、観光地となった。その過程はけっしてきれいな一本道ではなく、さまざまな人々の生活と欲望と文化が堆積した結果です。

グッズの問題も、街の変化も、表面だけを見ていると単純に見えますが、掘り下げると複雑な歴史や背景が見えてきます。新大久保は、そういう意味でとても正直な街だと感じました。