叡智の三猿

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名誉毀損と侮辱罪 ― 守るべき名誉と尊厳

SNSでの誹謗中傷に対抗するひとりの女性デザイナーの物語です

優香は大学卒業後、大手メーカーの事務職として働きました。そこで社内広報の仕事をするなかで「デザイナー」という人と出会いました。それがきっかけで、優香はデザインの仕事に興味をもちました。どうしてもデザイナーになりたいと思い退職を決意しました。

優香は専門学校に通いながら、デザインコンテストに何度も参加しました。審査委員から厳しい評価を受けることで、自分のスキルアップをしたかったのです。

専門学校を卒業後、念願がかなって、小さなデザイン事務所で働くことができました。

その小さなデザイン事務所は、急成長を遂げ、業界の注目を集めました。立役者は、優香の斬新なデザインにあったと思います。もともと、美的感覚には自信がありましたが、優香はクライアントとのコミュニケーションを大事にしました。それが、成功につながったと思います。

優香はとある情報番組で、デザインのコメンテータとしてのテレビ出演をきっかけに、ビジネス系雑誌や、SNSなどのメディアに取り上げられるようになりました。しかし、短期間のうちに多くの光が当たったためなのでしょうか!?影が急に押し寄せてきたのです。

ある日、匿名で X に優香に関する書き込みが投稿されました。投稿はわたしの Xアカウント での投稿を引用する形で行われました。

この人、事務所の売上を横領しているみたいだよ。最近、高級車に乗り換えたしね。

ひとつの心ない書き込みは、多数の「いいね」が押され、瞬く間に拡散されました。優香が売上を横領しているということが、あたかも真実であるかの如くです。もちろん、それは事実無根です。確かに優香は車を購入しました。しかし、それはわたしが数年かけてコツコツ貯金したものです。売上の横領など、決してしてません。

優香は、その投稿に「怒り」を覚えました。無邪気に「いいね」を押して、拡散する人にもムカつきました。

しかし、優香の「怒り」をよそに、Xへの書き込みは優香の評価を貶めました。優香は取引先から不審な目で見られるようになりました。優香のデザインセンスをひいきにしていた、顧客は次々と契約を白紙にすると言いました。事務所の同僚たちまで、炎上している優香に対して、距離を置くようになりました。

誰もが「火中の栗を拾う」のは避けたかったのでしょう。

友人の助言

学生時代の友人は、いまの優香の状況を問題だと感じました。彼女は弁護士に相談することを勧めました。

これ、絶対に名誉毀損だよ。事実無根の情報を拡散され、せっかく頑張って築いたあなたの評価が、だだ下がりになってるよ。法に訴えるべきだよ。

さらに友人は続けました。

最近は情報流通プラットフォーム対処法という法律があって、SNSや掲示板の運営者に削除や情報開示を求めやすくなっているみたい。わたしも協力するよ。

「名誉毀損」という言葉が優香の脳裏に焼き付きました。同僚からもそっぽを向かれ、怒りと絶望の底にいたところに友人の言葉は一点の光を与えてくれました。

「情報流通プラットフォーム対処法」について、優香は調べました。この法律は「プロバイダ責任制限法」を2025年に改正したもののようです。改正により、被害者からの削除申請に対し、事業者側は迅速な判断と通知を行うことが求められることを知りました。X では7日以内の判断・通知が義務付けられていることを知りました。

何はともあれ、被害の回復や法的措置を取る上で、「証拠保全」は重要です。優香は被害に遭った投稿やメッセージのスクリーンショット、アカウント、投稿日時などの情報を保存することにしました。

スマホでの通報手順(例:SNS運営へ)

  1. 問題の投稿をスクリーンショットで保存する(スマホの電源+音量ボタンで撮影)
  2. 該当投稿の右上メニュー(…)をタップ
  3. 「報告する」または「通報」ボタンを選択
  4. 「嫌がらせ・誹謗中傷」などの該当理由を選び送信
  5. 弁護士相談や警察相談用に、投稿URLもコピーして保存

X の攻撃はそれだけでは終わりませんでした。

今度は別の匿名アカウントが、優香の容姿を揶揄する投稿を繰り返すようになったのです。
「笑顔の写真を投稿しているけど、目が笑ってないよね。」「これほど、見て気分の悪い顔は珍しいと思う。」

見た目に対する投稿は、優香の人格そのものを否定しているようです。心は深く傷つきました。売上を横領したというデマは、「怒り」を覚えましたが、今度は違います。優香は自己否定に陥りました。鏡を見るのが怖くなりました。もともとは、人懐っこい性格だったはずなのに、人と会うことも避けるようになりました。

弁護士の助言(侮辱罪)

「最初の書き込みは名誉毀損だけど、今回の投稿は侮辱罪に当たる可能性がありますね。具体的な事実を挙げていなくても、人を馬鹿にしたり、罵ったりすることで、その人の尊厳を傷つける行為です。」

侮辱罪・・・その言葉は、優香の心に、もう一つの光を灯しました。

名誉毀損は、「事実を摘示し、人の名誉を傷つける」行為であり、社会的評価の低下が問題となる。一方、侮辱罪は、「事実を摘示することなく、人を侮辱する」行為であり、個人の尊厳が傷つけられることが問題となることを知りました。

ふたつの法律が、自分の苦しみに寄り添ってくれることを優香は知りました。

でも、実際の手続きは決して簡単ではありません。証拠保全をしても相手が匿名の場合、身元の特定にも時間と労力がかかります。さらに、弁護士への相談や代理人の依頼が必要となるケースが多く、費用もかかりました。裁判や調停が長期化することもあり、費用面だけでなく、精神的な負担がかかりました。加えて、名誉毀損や侮辱罪の成立条件は法律的に複雑です。必ずしも訴えが認められるとは限りません。

一般の人にとって「法」というのは、関わるのに壁を感じます。優香はモヤモヤした気持ちを引きづりながら、事務所からの帰りみち、偶然、市の図書館で「DIGITAL POSITIVE ACTION」と書かれたポスターを見かけました。気になって調べてみると、これは偽情報の拡散や、情報バブルの問題などを改善するために立ち上げられた官民のプロジェクトだとしりました。

この戦いは単に加害者を罰するためだけではありません。優香だけでなく、誹謗中傷という目に見えない暴力に苦しむ人々は大勢います。そこに「法が存在」し、一人で苦しまなくてもいいという希望を与えたいと思いました。

優香は自分自身の尊厳と、守るべき名誉のために、前を向いて歩き始めることとしました。