1970年代、日本の音楽シーンに「ニューミュージック」という言葉が登場しました。これは、従来の歌謡曲とは一線を画す、シンガーソングライターによる自作自演のスタイルを指す呼称でした。
吉田拓郎、荒井由実(松任谷由実)、井上陽水、中島みゆきらがその代表格として活躍しました。曲調はフォークの流れを汲みながらも、より洗練されたサウンドと、個人の感性を反映した歌詞が特徴的でした。ニューミュージックは、音楽業界が、従来の演歌や歌謡曲と区別するマーケティング用語として積極的に使用しました。
1979年には、サザンオールスターズの「いとしのエリー」、オフコースの「さよなら」、八神純子の「ポーラー・スター」などが大ヒットし、ニューミュージックが広く世に受け入れられたことを実感させました。
ただ、1980年代に入ると、ニューミュージックという呼称は次第に曖昧になります。いまになって、その皮切りと思うのが、1979年のツイストによる「燃えろいい女」の大ヒットです。この曲は世良公則の作詞作曲ですが、小野みゆきを起用した資生堂のCMソングが印象的です。70年代の後半から資生堂とカネボウは、CM合戦を繰り広げますが、これらのCMタイアップは数多くのシンガソングライターが関わり、人気アイドルが画面に登場します。
資生堂は竹内まりや「不思議なピーチパイ」、吉田拓郎「サマーピープル」、松任谷由実「メトロポリスの片隅で」など、カネボウは松田聖子「Rock'n Rouge」、南野陽子「吐息でネット。」など本当に多数ありました。ニューミュージック系のアーティストが、化粧品会社のイメージキャラクターに楽曲提供してヒットを連発させることで、音楽の多様化が進みました。ロック、ポップス、フュージョンなど様々なジャンルが混在する中で、「ニューミュージック」という狭い括りでは収まりきらなくなったのです。
そんな 80年代を通して、ポピュラー音楽が多様化するなかで、ある種のピリオドを打ったのが、ドリカムだと思います。ドリカムのデビューは1988年ですが、1989年にポッキーのCMソングに抜擢された「うれしい!たのしい!大好き!」が、大きなインパクトを与えました。

初めて会った時から違うモノ感じてた
自分の中の誰かが心をつついてた
友達にはうまく言えないこのパワーの源を
“恋をしてる“ ただそれだけじゃ
済まされないことのような気がしてる
きっとそうなんだめぐりあえたんだずっと探してた人に
目深にしてた帽子のつばをぐっと上げたい気分
~「うれしい!たのしい!大好き!(DREAMS COME TRUE)1989年」
ドリカムはより洗練されたポップスです。はじめてドリカムを聴いたとき、そのダンサブルなサウンドや都会的なイメージは、フォーク的なルーツを持つニューミュージックより、ずっとグローバルな印象を持ちました。
ドリカムの楽曲の制作スタイルは、吉田美和が作詞作曲を手がけるシンガーソングライター的な側面はあるのですが、中村正人というアレンジャー/プロデューサーとの役割分担があります。
どちらかというと、ニューミュージックは「一人で全てを」というスタイルでした。でも、ドリカムはチームで制作するイメージです。その意味で、マーケティングが楽曲制作の前提条件になったと思うのです。
だから、ニューミュージックは、ドリカムの登場によって、ピリオドが打たれ、その後は J-POPとして、より大きな経済圏としての音楽産業が発展していくことになったと思います。
その視点で振り返ると、80年代にし烈を極めた資生堂とカネボウのCM合戦は、転換の過程だった気がします。竹内まりや、吉田拓郎、松任谷由実などのニューミュージック勢が化粧品CMに楽曲を提供した時点で、その音楽は「個としてのアーティストの表現」から「商品を売るためのマーケティングツール」へと性質を変えてました。
ポピュラーミュージックに関わらず、あらゆる取り組みは、個人技からチーム戦へと転換していくのが自然かもしれません。
それは「情報セキュリティの攻撃」も同じです。
初期のブラックハッカー(悪意を持ってコンピュータシステムに不正に侵入し、情報を盗んだり、破壊したりする犯罪者)は、自分が保持する技術力・表現力からくる情熱が攻撃の動機になってました。企業が構築する堅牢なシステムに対する挑戦的な破壊行為は、歌謡曲や演歌に対抗するニューミュージックと同じ匂いがします。
しかし、いまのサイバー攻撃は、手段でしかありません。攻撃の主な目的は、金銭を得ることです。実際、IPAが発表した「情報セキュリティ10大脅威 2025(組織)」において、データを人質にとって身代金を要求するランサム攻撃による被害は1位を獲得してます。既に 5年連続で、首位を維持しています。今年もアサヒビールやアスクルなど多数の被害が報告されてます。来年も間違いなく1位でしょう。
いまは RaaS(Ransomware as a Service)と呼ばれる、サービスとして開発・提供されたランサムウェアによる攻撃もあります。RaaS サービスを利用することで、技術的な知見が乏しくても、手っ取り早くランサム攻撃が出来る環境が整ってます。
もちろん、サイバー攻撃のビジネスは犯罪です。攻撃を手軽な金儲けと考えるべきではなく、倫理的な境界線は守らなければいけません。
それでも、「情熱駆動型から市場駆動型へ」という攻撃の変容パターンは、ポピュラーミュージックと同じ変化を感じます。