11月28日、マエケンこと前田健太の東北楽天ゴールデンイーグルス入団が発表され、日本球界復帰が正式に決定しました。
いちカープファンとして、マエケンに対して、広島東洋カープ復帰にオファーが出なかったことを思うと、複雑な思いが湧いてきます。
ひとつには「縁」という感覚があります。マエケンは長年、カープの中心であり、ファンと深い絆を築いてきました。カープのエースとして君臨し、勝利の喜びも悔しさも共にした時間のすべてが、いわばマエケンとファンとの縁の証です。ファンにとって、マエケンは、単なるいち投手ではありません。カープの象徴であり、弱小球団のなかの希望でした。それゆえ、復帰を心に描いていたマエケンが自身のインスタグラムで「カープからオファーは届きませんでした」と綴ったとき、胸に刺さる思いを抱かずにはいられませんでした。過去に新井や、特に黒田が復帰してわたし達を喜ばせたこともあります。マエケンにも同じように迎え入れてほしいという感情は当たり前です。カープファンのなかには、SNS上では「来季は球場に行かない」「ファンをやめる」といった書き込みも散見されます。わたしを含めて、この出来事に対するファンの失望や苛立ちは隠せません。応援してきた年月の長さと、マエケンへの想いの深さが、フロントの判断に対する批判として表れるのは当然だと思います。
しかし、もう一方には「科学的合理性」の視点もあるでしょう。近年の前田選手はケガや成績の低下もあり、年俸2億円程度と想定される契約は、チームの財政面で大きな負担でしょう。特にカープは若手育成と、チームの若返りを重視してます。そこに先発ローテーションにベテランを組み込むことで、若手の登板機会が減ることは必ずしもプラスでは無いという判断ができます。戦力構成や将来の育成計画から考えれば、高額契約での獲得は慎重になるのは自然な判断かもしれません。カープファンや、野球解説者の意見としても「個人的には獲得してほしかったが、戦略面からは理解できる」との声も意外と多くあります。
この出来事はカープというプロ野球の球団に対しての記事ですが、あらゆる組織は、本質的に「縁」と「科学的合理性」の二極でせめぎ合いをしていると思います。
「縁」を重視する組織は、心理的な居心地の良さが魅力的です。そこは、人間として受け入れられている感覚があり、失敗しても見捨てられない安心感もあります。縁が強ければ、孤独感を感じることも少ないでしょう。また、仕事を通じた深い人間関係を形成することで、困った時に助け合える仲間が出来るかもしれません。人生の節目を共有できるつながりは大切です。
しかし現実は、そんないいことばかりではありません。わたしは日本の伝統的な大企業と、スタートアップのベンチャーで多くの社会人生活をしてるのですが、両者はまったく違う性格をもちながらも、共に「縁」を重視する意味では共通する風土があります。そういう「縁」を重視する組織は、どうしても同調圧力やしがらみの息苦しさを感じることがあります。仕事が非効率と感じたり、理不尽な出来事に遭遇しても、我慢を強いられることも多々あります。昨今のワークライフバランスとは相いれない、プライベートとの境界の曖昧さも存在します。
情報セキュリティのトレンドである「ゼロトラスト(「何も信用しない」ことを前提として、すべてのユーザー、デバイス、通信を常に検証し、アクセスを許可するセキュリティモデル)」の面から見ると、「縁」を重視する組織は「疑わない」文化が厄介です。ゼロトラストの「決して信頼せず、常に検証する」原則が根本的に対立します。ですので「縁」を重視する組織でも、段階的なゼロトラスト導入が必要でしょう。「人を疑うのではなく、システムとして守る」という方針で、心理的抵抗を軽減しながら技術的統制を強化しないと、内部不正によって組織が崩壊するリスクが高くなるでしょう。
その点では、「科学的合理性」を重視する組織は、ゼロトラスト導入は比較的容易で馴染みやすいはずです。そういう風土を持つ組織で、イメージしやすのは「外資系コンサルティングファーム」とか「グローバルテック企業」です。わたしは、所属した経験がなく、よく分からないからこその魅力を感じることもあります。
- 成果で評価される公平性
- 人間関係のしがらみからの解放
- 効率的で無駄のない働き方
- オンオフの切り替えやすさ
もっと若いときに、こういう環境で育つことで、より成長の機会を得られたのかもしれないとは思います。実際、そういう組織からのオファーはいまも来ることもあるのですが、わたしの脳は躊躇します。
なぜならそういう組織は、孤独で冷たい雰囲気がありそうで怖いからです。自分の価値が高ければいいのですが、低いとみなされると、消耗品の如く、使い捨てられるのか!?と不安があります。自分の心身のバイオリズムとは関係なく、常に成果を出し続けなければならないプレッシャーはストレスです。自己責任という言葉が横行し、困った時に頼れる人がいないのもマイナスな感覚です。
話がマエケンから逸れましたが、カープのフロントの決断は感情に左右されず、理性に基づいた現実的な選択だったとも言えるのかもしれません。
しかし、ファンの立場からは、合理性だけでは納得できません。長年支えてきたエースとの縁が途切れたように感じ、球場でカープに声援を送る意味や楽しみさえも薄れてしまいそうです。勝敗や数字だけでなく、応援してきた時間や思い出も、チームを支える重要な要素であることは確かです。
昨日は広島のマツダスタジアムで「Carp Legend Game」が開催され、往年の赤ヘル名選手45人が紅白戦でプレーを披露しました。試合前には両軍の監督を務めたレジェンドOB、山本浩二と安仁屋宗八がファンに挨拶し、山本浩二は「仕草だけは似ています。笑わないでください」とユーモアを交え、安仁屋さんは「試合がある限りは絶対に負けない」と意気込みを語り、観客を盛り上げたとのことです。
広島には行けないので、復刻ユニフォームだけ買い気分に浸りました(左上から、前田、江夏、ホプキンス、秋山)。

マエケンのイーグルス入団という出来事は「縁」と「科学的合理性」のせめぎ合いとして映りました。前田選手とチーム、そしてファンとのつながりを大切にする心情と、戦力構成や財政といった現実的判断の狭間で、カープ球団は選択をしたのでしょう。単なる補強の是非を超え、功労者との縁をどう尊重するか、未来を見据えた科学的判断とのバランスをどう取るかが問われる出来事として、来シーズンはちょっと冷静な感覚でカープを応援したいと思います。