叡智の三猿

〜森羅万象を「情報セキュリティ」で語る

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運用と開発で考える保守とリベラル

高市早苗が自民党総裁に選出され、日本初の女性首相になる可能性が高くなりました(公明党の政権離脱により、それが風雲急を告げたときもありますが)。

高市さんは保守派として、靖国参拝継続の姿勢を示し、選択的夫婦別姓導入に反対するなど伝統的価値観を重視してます。安倍元首相の後継者として「サナエノミクス」を掲げ、積極財政と経済安全保障を推進する役割が期待されます。また、自民党総裁としては、参院選で参政党に代表される右派政党に流れた保守票を取り戻すことが使命だと思います。

日本のみならず、ここ10年で世界的な保守化が顕著です。米国のトランプ再選が象徴的ですが、欧州では移民排斥を掲げる右派政党が躍進してます。グローバル化への反発、移民問題、経済格差の危機感があります。急速な社会変革の疲弊が「自国ファースト」を掲げる保守勢力への支持を生んでるのでしょう。

政治用語で使われる「保守」と「リベラル」を ITの世界で例えるなら、保守派は「運用チーム」だと思います。運用は既存のシステムの安定性を最優先し、実績のある技術を維持することを重視します。急激な変更はリスクを伴います。慎重にテストを重ね、段階的なアップデートを好みます。

一方、リベラル派は「開発チーム」的です。開発エンジニアは、新技術の導入に積極的です。レガシーシステムの刷新を主張します。イノベーションやDXの御旗のもとに、より効率的なシステムを構築しようとします。

理想的には、運用と開発が協力してバランスを取るように、保守派とリベラル派の対話が健全な民主主義には不可欠だと思います。長年、自民党に協力してきた公明党が政権離脱の道を選んだのは、両者の対話の欠如が背景にあるのかな?と、想像します。

昨今の保守シフトをITで考えるなら、保守寄りにすることで、安定性の向上がメリットとなります。頻繁なシステム変更によるバグや障害のリスクが減り、予測可能な運用が実現できます。組織内の混乱も少ないはずです。メンバーは慣れた環境で効率的に働けます。実績のある技術を使い続けることで、信頼性の高いサービス提供が可能になります。

でも、リスクもあります。レガシーシステムを延命し続けると、いずれ保守が困難になります。運用コストが高くなることで、企業間の競争力を失いかねません。新技術への対応が遅れ、市場の変化についていけなくなる可能性があります。先進的で優秀なエンジニアは、もっと新規性のある環境を求めて離れていくかもしれません。

日本はもともと、保守を重視する傾向が強いと思います。その姿勢がデジタル変革の遅れにつながり、実際に取り組んでも、失敗するケースがいくつもあります。

象徴的なのは、マイナンバーです。マイナンバー管理は、行政のデジタル変革を目指した野心的なプロジェクトでしたが、多くの課題を露呈しました。

技術的な問題としてあげらるのは、複雑なレガシーシステムとの統合が不十分です。各省庁、各自治体のシステムがバラバラで、データ連携時に誤登録や紐付けミスが頻発しました。異なるデータベース間の整合性チェックが甘く、本番環境で深刻なバグが多発したのです。

国民のチェンジマネジメントも失敗してます。個人情報漏洩への不安、健康保険証との一体化への抵抗など、十分な説明と合意形成がないまま推進されました。そこに、情報セキュリティ対策の不備が表面化し、利用者の不信感を増大しました。

マイナンバーカードの活用を推進するため、ポイント配布などの施策しましたが、これは対処策でしかありません。継続的に使いたくなる魅力的なサービスが不足してます。使い勝手の悪いUIも問題です。

マイナンバーは制度設計の根本的な矛盾があります。そもそもマイナンバー(12桁の番号)は「秘密情報」として厳重管理が必要とされます。他人に知られると不正利用のリスクがあるため、むやみに見せてはいけないとされました。

しかし、マイナンバーカードを健康保険証や身分証明書として日常的に使うと、病院の受付、薬局、銀行、レンタル店などで番号が見える状態でカードを提示することになります。これでは「秘密」の意味がありません。

マイナンバーは「番号は秘密」と「カードで本人確認」という相反する原則を同居させた矛盾した制度になっているのです。

結局、巨額の投資に見合う効果が得られたとはおもえません。むしろ「デジタル化」=「混乱」という印象を私たちに与えました。これも、急激な変革への失望を生み、保守回帰の一因となったと思うのです。

ITエンジニアはリベラルな開発と、保守な運用に大別されますが、実際は同じ目標を持っています。それは「より良いシステムを作り、ユーザーに価値を届けること」です。開発者は闇雲に変えたいとは考えてません。運用担当も盲目的に現状維持したいわけではありません。

開発者が新たな技術を提案するのは、パフォーマンス向上やコスト削減という具体的な価値を見ているからです。運用担当が慎重なのは、障害がユーザーに与える影響を誰よりも理解しているからです。

どちらも正しい視点です。わたしのルーティンは、Microsoft Power Platform によるRPAの構築や、マクロ開発ですが、それらはレガシーシステムの維持をはかりつ、業務の効率化を目指す、保守的な開発です。

より良いシステムを作るには、両方の知見を統合する対話のプロセスが重要です。「変えるか、変えないか」という二元論ではなく、「どう変えれば、リスクを最小化しながら価値を最大化できるか」を共に考える姿勢です。

政治も同じだと思います。保守もリベラルも、「より良い社会」を目指しているはずです。異なる懸念や優先順位を持つ人々が、建設的に問題解決する態度が必要だと思います。