ヒョンビン主演の韓国映画「ハルビン」を鑑賞しました。
名前から想像するとおり、伊藤博文を暗殺する安重根(アン・ジュングン)の実話を題材とした物語です。リリー・フランキーが伊藤博文を演じていることでも話題になってます。
実話といいつつ、脚色もあります。作品には紅一点ともいえるコン夫人という役柄をチョン・ヨビンが演じてますが、これは架空の人物です。もし、この映画にコン夫人がいなければ、エンターテインメント要素ゼロの作品ぽくなってしまいます。
ヒョンビンは「愛の不時着」で、魅せたような色気は全く消してます。無精ひげを生やし、ヒーローぽくもありません。しかし、そのオーラを完全に隠すことは出来ません。なんてたってヒョンビンです。クライマックスのハルビン駅の雑踏に、伊藤博文を殺戮する安重根が紛れてますが、あまりにも目立ちます。実行犯としては相応しくないと思います。
作品全体として見れば、日韓の歴史認識の差異を知ることができるという意味で価値ある作品だと思います。ただ、歴史の知見がなく、ヒョンビンだけを楽しみにして見たら、寝落ちするかもしれません😅
昭和世代のわたしにとって、伊藤博文といえば、1000円札のイメージです。
伊藤博文は、日本で初めて「内閣総理大臣」になった人です。まさに近代日本の礎となった重要な人物です。ドイツのプロイセン憲法を参考にして「大日本帝国憲法」の起草を主導したことは、政治に大きな影響を与えました。
晩年は朝鮮との関わりが深くなりました。
1905年に韓国統監府が設置され、初代統監になりました。韓国の内政に強い影響を与え、日本による朝鮮支配を築きました。
そして最後は、映画で描かれているとおり、1909年にハルビン駅で、韓国の独立運動家の安重根によって暗殺されます。
伊藤博文の暗殺は、朝鮮と日本の関係に大きな波紋を広げました。
伊藤博文は朝鮮の併合には、どちらかというと慎重な立場とされてました。映画でもそれを彷彿する伊藤博文のセリフがあります。しかし、暗殺されたことで、日本国内では朝鮮を併合するべきという意見が強くなりました。1910年に日韓併合が実施され、朝鮮は日本の統治下に入りました。
日本の歴史では韓国を「併合」したことになってますが、韓国ではそれを「植民地」と捉えてます。
伊藤博文を暗殺した安重根は韓国では「英雄」として尊敬されています。映画では、伊藤博文を「抹殺」したとする表現を使ってました。「抹殺」と表現することで、邪魔者を消す意味が強くなります。安重根は、抗日独立運動の象徴的存在とされ、教科書にも英雄として詳しく紹介されているようです。
いっぽう、日本の教科書では、ここはあまり触れてない部分です。
「韓国では、日本の勢力を追い出そうという運動が広がり、日本の役所の長である伊藤博文は、韓国の青年安重根に暗殺されました(「わたしたちの小学社会」日本書籍)
そもそもお札になるような、多大な功績を残した伊藤博文です。その人を暗殺した人物(安重根)の教え方は、難しいと思います。安重根について、韓国では「抗日独立運動の象徴的存在」とされても、日本では「韓国の青年」と、矮小化した表現にすることで、単なる犯罪者によって、殺害されたイメージを日本の児童・生徒に与える教育をしている気がします。
この映画を観ながら「言葉」の使い方って、ポイントなんだと思いました。
話題は明治から一気に現代に飛ぶのですが、最近の情報セキュリティの脅威として、地政学的なリスクが顕在化し、国家間の対立や緊張がサイバー攻撃を誘発する可能性が高まっています。「情報セキュリティ10大脅威 2025」にも、初めて「地政学的リスクに起因するサイバー攻撃」が組織向け脅威としてランクインしてます。
しかし「地政学的なリスク」は事実として認知しても、国家がある限り、理想的な解決策は無いと思いました。
映画「ハルビン」を観ながら、そんなことも考えました。
「サイバー攻撃」という言葉があります。しかし、ある国家が自国のインフラを「防御」するため、相手国の環境をネットで「サイバー偵察」を行った場合も、相手国からは「攻撃」と見なされるでしょう。「攻撃」なのか「偵察」なのかは、国家による相対的な概念です。
そもそも、サイバー空間は「国家」の概念が希薄です。国家をまたぐ通信はいとも容易に行われ、どの国の主権が侵害されたのか!?攻撃の責任を誰が負うのか!?を突き止めることは困難です。
一般的には、サイバー攻撃を受けた際、IPアドレスによって相手を特定するのが基本です。
IPアドレスは、インターネットに接続する際に各端末に割り当てられる一意の識別番号です。これは、地域ごとに割り当てられててます。IPジオロケーションなどのツール(基本の構文は、geo_info_from_ip_address”IpAddress”)を使うことで、IPアドレスから、スマホ、サーバーなどのデバイスの地理的な位置を識別することができます。
しかし多くの攻撃は、IPアドレスをVPNやプロキシを使ったり、踏み台(ボット)を使うことで偽装します。実際はIPから攻撃した国を特定するのは難しいでしょう。

仮に特定したとしても、情報セキュリティの特性のひとつ「否認防止」は困難です。否認防止は、システムやサービスにおける特定の行為や取引が、後から当事者によって否定されることを防ぐための仕組みを指します。攻撃元とされる国家が「民間のハッカー集団の暴走」と主張すれば、それを覆すことは出来なさそうです。
ですので、国家が絡むサイバーリスクは、「一方通行の正義」を追求するよりも、「現実的な均衡」を目指すのが正解なんだと思うのです。