気が付けば2025年。そして「2025年の崖」という言葉を聞かなくなったことに気がつきました。
「2025年の崖」というのは、会社(大企業)が、現行のITシステムを全面的に見直し、2025年までにDX化による刷新ができなければ、最大12兆円/年(現在の約3倍)の経済損失が生じる可能性を示唆した言葉です。
これは、2018年に経済産業省より「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」で展開されてます。
~「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~(経済産業省)」より
このレポートをものすごく端的に表現すれば「2000年代に導入したSAPシステムを見直し、クラウド、モバイル、AI技術をマイクロサービス、アジャイル開発で置き換えましょう。」と書いてます。
問題のやり玉にあげたSAPシステムは、維持管理費が高額だからです。維持費で会社のIT予算の9割以上を占めているとされます。SAPを短期的な観点でシステム導入し、結果として、長期的に保守費や運用費が高騰している状態を招いているのです。
であれば、SAPシステムを見直し、DXの号令の下で小回りのきくマイクロサービスをクラウド上で構築し、アジャイル開発で進化させていけば、維持コストを抑えつつ、変化につよい会社に生まれ変わるというシナリオです。
レポートでは、システム刷新集中期間(DXファースト期間)を2021年から2025年と定めてます。
しかし、もう2025年です。近づいているのに「2025年の崖」が聞こえなくなった理由は簡単です。
DX化はいろんな会社が取り組んでますが、DXによる効果が見えてこないことが明らかだからです。
レポートでは、DXを実現すれば、2030年に実質GDP130兆円超の押上げを実現すると明記してますが、そのような効果を実感するにはほど遠い現実です。
なぜなら、多くの大企業では、DX化を推進したことで、下図のようなカオスなシステムになっています。多数の小さなサービスを管理しきれない数のAPIやRPAで疎結合している状態です。
- マイクロサービス:規模の小さいサービス同士を組み合わせて連係させることで、ひとつの大きなアプリケーションの構築を行う技法
- API:ソフトウェアやプログラム、Webサービスの間をつなぐインターフェース
- RPA:パソコンで行っている事務作業を自動化できるソフトウェアロボット技術
DX化の前提は、小さくサービスをはじめて、アジャイルにより大きくしていくことです。しかし、小さくはじめたサービスは、他のサービスからデータを受け取る必要があります。そのため、サービス同士をつなぐAPIやRPAによるデータ連携が必要になります。
逆にデータ連携をしなければ、人間がいくつものサービスに同じデータを登録していかなければなりません。
それはDX化と真逆の方向です。
サービスの数に従って、必要となるデータ連携の数は前提条件によります。
仮に各サービスが他のすべてのサービスと直接API(若しくはRPA)を通じて通信すると仮定すると、APIの数は組み合わせによって求められます。
組合せとは、いくつかあるものの中からある個数とりだしたもので、取り出した順序や並べ方に関係しない組みのことです。
異なる個のものから個とった組合せの総数は
で示します。
組み合わせは、異なる個のものから個とった順列の総数を異なる個のものから個とった順列の総数で割った値となります。
すなわち、
です。
サービスをつなぐ、APIの数の組み合わせは、サービス間のペアで示されます。ですので、nがサービスの数で、rは2です。
仮にサービスが4個あった場合、必要となるAPIの数は6個です。サービスが8個になると場合、必要となるAPIの数は28個です。
そのままサービスの数を増やすと、こんなグラフになります。
サービスの数が増えるにつれてAPIの数が急速に増加することが分かります。多くの会社で、加速度的に増えていく、APIやRPAの開発にリソースが追いついてないのが現実です。
これは、はじめから分かっていることです。
分かっていることが、分かっている通りの結果を招いているだけのことです。