叡智の三猿

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仕事は「縁」なのか、ジョブなのか!?

2023年の年頭所感で岸田首相は、低迷する日本の賃金に対して、「リスキリングの支援 や 職務給の確立、成長分野への 雇用の移動 を三位一体で進め、構造的な賃上げを実現する」と発言しました。

ここで職能給というのは、メンバーシップ型からジョブ型への雇用の転換を指し、雇用の移動とは、文字通り、転職を推進することと読めます。

ジョブ型雇用と、メンバーシップ型雇用を比較すると下記になります。

メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用

年頭所感で岸田首相が述べてることの意味は理解できるのですが、違和感を感じました。言葉に現実感を感じないのです。

それから、しばらく経って「そうか!だから違和感を感じたんだ!」と、勝手に納得しました。

岸田首相の年頭所感は 「大企業に勤める会社員や経営層に対してのメッセージであり、中小企業に勤める人は眼中にない」と、解釈しました。

わたしは IT 業界で社会人を 30 年以上経験してますが、そのうち、半分は大企業、半分は中小企業に籍を置いてます。そのため、大企業、中小企業ーーどちらの感覚もある程度、分かっているつもりです。

中小企業を前提として、岸田首相の発言を聞くと、まったくピントがずれていると思いました。

そもそも、人の少ない中小企業では、職を専門分野に分けて、職を限定して採用する「ジョブ型」と呼ばれる雇用形態は無理があります。

たとえば、大企業の営業職では、お客様に手当たり次第にアポをとるような セールスマン もいますが、成約につながる見込み顧客を選定して、科学的にアプローチする インサイドセールス を設ける会社も増えてます。そして、対面商談は インサイドセールス から フィールドセールス のメンバーに、効率的に渡していく手法も取れるでしょう。更に、成約に際して必要となる見積書や、請求などの事務処理は、別部隊で対応するのが一般的です。

大企業なら、営業に求められるいくつもの専門的なスキルをジョブに分離し、個々のジョブに対して、人を当てはめることは可能だと思います。

しかし、中小企業ではひとりの営業マンが、見込み客へのアプローチから、商談を重ね、成約に関する事務手続きまでを一気通貫で行います。更に成約後のお客様サポートまで行うことも珍しくありません。

すなわち、複数の専門領域をひとりの営業マンが担当します。そのため、かなりのエキスパートな人材が必要ですが、現実にはそのような人材を採用することは出来ません。

そもそも中小企業は、業績の良しあしに関わらず、人を採用することが非常に困難です。

一般に会社が駄目になる理由は、業績が悪いからと思われがちです。しかし、実際は業績が悪いからだけではありません。業績悪化で駄目になる会社もあるでしょうが、そもそも、働く人を確保できないので、事業を続けることが出来なくなる場合が多いのです。

無名の中小企業が転職サイトに採用広告を出して、求人登録をしている人にダイレクトメールをたくさん打っても、応募者はごく僅かです。誰も応募しないかもしれません。

ですので、中小企業の採用は、求人広告などのオープンな募集形式より、社員の知人を紹介頂く「縁」による採用が主です。「縁」で入社した人は、簡単には会社から出ていきません。会社としてもただでさえ、人出不足なので、社員に出ていかれたら、存続に関わる深刻な事態です。

ちなみに「縁」による採用は、中小企業だけでなく、大企業にも徐々に広がってます。

これは「リファラル採用」と呼ばれます。リファラル採用は、会社が社員に対し、募集をかけている求人にマッチする知人や友人を紹介してもらい採用する手法です。リファラル採用で入社した人は、自分の知り合いが会社にいるので、入社後も社内に馴染みやすく、結果として離職しにくい人材になります。

また、会社としては採用コストも抑えられるのもメリットです。転職サイトに広告を出すと、最低でも一回の掲載で、50万 はかかります。転職エージェントによる紹介で採用すると、だいたい年収の 30% は紹介料がかかります。たとえば、年収が 600 万の社員を採用したら、180万 をエージェント会社に支払う必要があります。リファラル採用だと、人材会社に払う、採用コストが大幅に減る分、人材を紹介してくれた社員に還元もできます。

日本の全企業のうち99.7%を中小企業が占め、従業員の7割が中小企業で働いてます。中小企業が大企業を圧倒してます。

低迷する日本の賃金を上昇させるには、大企業より中小企業への対策がより重要だと思います。