叡智の三猿

〜森羅万象を情報セキュリティで捉える

当サイトは、アフィリエイト広告を使用しています。

全体最適と個別最適のジョブ型雇用

大手の人材派遣会社であるマンパワーグループの調査によると、人事担当者の約8割が「ジョブ型雇用」に賛成をしている結果が出ています。


企業で人事担当者を務める20代~50代の男女400名に、ジョブ型雇用の導入に賛成か聞いたところ、全体の約8割が「賛成」(76.3%)と回答しました。従業員数の規模別に見ると、「100人以下」の企業が15.4%であることに対し、「501人以上」の企業では32.9%と、規模が大きい企業の人事担当者ほど賛成の割合が高い結果となりました。従業員規模が大きい企業ほど、ジョブ型雇用の導入に積極的であるといえそうです。
~引用:「人事担当者の約8割が「賛成」のジョブ型雇用、そのメリット・デメリットとは? | 人材派遣・人材紹介のマンパワーグループ」より

「ジョブ型雇用」とは、仕事の範囲を明確にすることで「専門性を高める」方向の採用方式をいいます。「ジョブ型雇用」の対義語は「メンバーシップ型雇用」です。新卒生を会社が一括する際は、労働時間や勤務地、仕事内容を限定しない場合が多く、これは「メンバーシップ型雇用」の典型です。

いわば、ジョブ型雇用で求める人材はプロフェッショナルで、メンバーシップ型雇用で求める人材はジェネラリストです。

長らく社会人をやっていると思うのですが、会社がプロフェッショナルな人材を欲しがるのは大抵が不景気です。

1991年にバブルが崩壊し、都銀の一角を担っていた北海道拓殖銀行は1996年に破綻しました。そして、景気後退を世間に強く印象づけたのは、1997年の山一証券の破綻です。社長の最後の会見は、いま見ても胸に突き刺さる言葉で、山一証券の社員でないわたしが見ても涙が出そうです。

youtu.be

この頃から、社員はプロフェッショナルであるべきだという論調が多く出て、会社の賃金体系は伝統的な年功序列から、成果主義が叫ばれました。成果主義を導入して成功した花王の事例が、ビジネス情報誌で紹介されると、各企業もこぞって成果主義を導入しました。

成果主義とは、読んで字のごとく、社員の報酬は、成果のみで評価を下すことです。 勤務年数、年齢、学歴、勤務年数は考慮せず、評価期間内の仕事の成果のみで報酬が決定されます。成果を発揮した社員は、高い報酬がもらえ、そうでない社員は報酬が低く抑えられます。

成果主義の導入によって、少数のプロフェッショナルな社員の給与はあがりましたが、多数の社員の給与はさがります。下記の平均給与の推移をみると、成果主義への移行が叫ばれた1997年を境に給与が減っている様子が分かります。

出典:平均給与(実質)の推移(厚生労働省の報告書より)

成果主義やジョブ型雇用といった制度は、社員の評価システムや賃金体系に影響します。そして一度決めた、評価システムや賃金体系を変更するのは容易ではありません。2000年代に入り、成果主義の問題が顕在化しても、会社は評価制度の変更をすることができず、給与はズルズルと長期に渡って下降しました。

いま、注目されているジョブ型雇用でも、成果主義と同じ轍を踏むような予感がしています。

本来目指すべき、ジョブ型雇用は、仕事に専門性の高い人材を充てることで、事業を進展させ、経営のイノベーションを起こすことだと思います。そのためには、会社間での人材の流動化も必要です。適材適所な人材配置が、日本の会社全体で活性化することで経済は発展します。

日本経済の全体最適の視点で、ジョブ型雇用の促進は間違っていないと思います。

しかし、個別の会社でみると、ジョブ型雇用は人件費の抑制が目指すべき姿です。会社は利益を追求するのが使命ですので、能力の低い社員に給与を払いたくないと考えるのは、仕方がありません。

会社の就業規則には解雇に関わる記載があります。どの会社でも社員を解雇するには「業務能力が著しく劣り、勤務成績が著しく不良のとき」といった解雇要件を満たしている必要があります。

メンバーシップ雇用だと、会社が社員に求める姿はジェネラリストです。いま社員に与えている仕事の能力が欠如しても、別な仕事であれば、能力を発揮できる可能性があります。たとえば営業マンとしての成績がわるくても、お客様サポートに配置転換すれば能力を発揮できるかもしれません。会社としては解雇のまえに配置転換を検討する必要があります。

ジョブ型雇用であれば、仕事の範囲が限定されます。その分、メンバーシップ雇用にくらべ、業務能力が劣る社員の解雇がしやすくなります。したがって、ジョブ型雇用を導入すると人件費の抑制に貢献します。

しかし、個々の会社が人件費の抑制を目指してジョブ型雇用を採用したら、その総和は日本経済の活性化につながるでしょうか!?

とてもそうは思えません。

個別最適の和は全体最適にはなりません。