叡智の三猿

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テレワークと1on1

わが家は共稼ぎです。わたしは2000年代にできたIT会社に勤め、妻は伝統ある大手の保険会社に勤めています。

コロナ禍を契機として夫婦ともにテレワークとなりました。そして、わたしの勤める会社はコロナが収まってもテレワークが続きました。しかし、妻の勤める会社は直ぐに元の勤務形態に戻りました。

この違いは会社の業務の仕方の違いにあります。わたしの勤務する会社は、IT企業ということもあるのですが、ほぼすべての業務はインターネットで完結します。日々発生する申請などの書類はすべて電子媒体で行われタイムスタンプで電子署名として承認されます(下図)。

タイムスタンプによる電子署名

電子文書にタイムスタンプを付与する意味は、①タイムスタンプの時刻にその文書が存在していることを証明すること。②タイムスタンプの時刻以降その文書が改ざんされていないことを証明すること。です。

一方、妻の勤める会社は、申請などの書類はすべて紙で行われ、担当者や上長による日付印で回覧や承認がされます。紙媒体は事業所の保管庫で管理されています。このような会社がテレワークを行うには、事前に紙媒体をスキャナーで電子化してネットワークフォルダーに格納する作業が必要です。そのため、コロナ禍では紙媒体を電子化するための出勤を担当者がローテーションで回していたのです。

紙媒体で仕事を回している会社はテレワークになると、電子化するための余分な仕事が発生するので、生産性が低下します。

業務のDX化が進んでいる会社では、テレワークでも仕事の生産性が落ちることはありません。

テレワークの課題はコミニュケーションの欠如です。オンライン会議やチャットを使うことで、業務上の意思疎通は問題なくできます。ただ、体調が悪そうとか、忙しくて余裕がなさそうとかといった、社員の微細な兆候を見つけるのは、現場の近くにいないとなかなか分かりません。特にメンタル面はネットワーク越しに映る顔だけでチェックするのは困難です。

テレワークは通勤地獄から解放される面でとてもいいのですが、日常で歩くことが置き去りになる可能性があります。わたしは万歩計をつけているのですが、テレワーク以前は日々の通勤だけで5000歩は歩いていました。1日1万歩を目標にしていますが、毎日の通勤にプラスして、ランチで遠征したり、客先に移動したり、デパートをぐるぐる回ったら1万歩の達成は容易でした。

テレワークで歩く機会が激減しました。いまの時期のように昼間の時間が長ければ、仕事後に歩くのもやりやすいのですが、冬場だと仕事が終わったら真っ暗なので、近所のスーパーでちょっとした買い物ぐらいしか歩く機会がありません。そうすると、1000歩程度しか歩かない日もあります。運動量が少ないので、肉体的な疲労は小さいのですが、ストレスは増加し、ぐっすり眠れない日も珍しくありません。

毎日、事務所に出勤して働いている人からみると、テレワークは楽に見られがちです。実際のテレワークは辛く、しんどいのです。テレワークのしんどさがなかなか周囲に理解されにくいこともストレスを増す要因です。

スマホなどの機器に付属するカメラで、顔を撮影することで、その人のバイタルサインである、血圧、心拍数、ストレスレベルの推定値を算出するツールの導入も検討していますが、あくまで体調管理は本人の自己申告に基づきます。一緒に仕事をしている仲間として、雑談や何気ない仕草から気づくことも必要です。

コロナ禍で1on1が注目されました。1on1とは、リーダーとメンバーが定期的に行う1対1の面談です。1on1は人事評価のために行う「考課(後)面談」や、プロジェクトの進捗管理とは異なります。あくまで「メンバーのための時間」です。1on1を通じて、メンバーは職場環境や人間関係で不安に感じていること、プライベートで気になることを含め、好きなことを話します。一回の面談時間は30分程度です。リーダーはメンバーの精神的なサポートを行います。

もともと、アメリカのIT系企業では、1on1を行う文化があったようです。日本ではコロナ禍を契機としてこのシステムを取り入れる企業が増えました。当時、わたしは15人ほどのメンバーを抱えていたので、月1回の開催を目標として1on1をしていました。ただ、強制で参加するミーティングではないので、約半分のメンバーは1回か2回で離脱しました。それでも運営にはそれなりの労力が必要でした。

ただ、1on1は会社に根付くことなく、自然消滅しているようです。コロナが収まりつつあり、事務所に出勤するようになった社員が増えたことが背景にあるのでしょう。ただ、1on1の趣旨は、リーダーによるメンバーの精神的なサポートが目的です。社員が出勤しているか、在宅勤務かは1on1をする上での本質的な問題ではないと思います。