神の見えざる手
前回はSCM(サプライチェーンマネジメント)の需要予測を例として技術の進化を書きました。
簡単に書くとこうです。
- かっての需要予測:単変量解析の算出結果に販売計画担当者の経験と勘を加味した予測。
- これからの需要予測:ビッグデータとAIをコラボさせたDXによる予測。
需要予測という仕事自体はむかしもいまも変わりませんが、これからの需要予測は仕事にITがより浸透していきます。
ところでITは文字通り、技術ですが、経験と勘は技術なのでしょうか!?
これは見方が分かれると思います。もし、経験と勘に予測でも実績との的中率が高ければ、その人が独自に培った市場を読む技術と解釈することができます。一方、経験と勘による予測は非科学的な手段ですので、技術ではないと見ることができます。
近代経済学の父、アダム・スミスは「国富論」のなかで「神の見えざる手」という有名な言葉を残しています。「見えざる手」とは、自由な市場において互いに影響しあっている企業や家計が「見えざる手」に導かれるようにして望ましい結果に着地するということです。
「神の見えざる手」にそのまま従うと、需要予測を含めたSCMの目的である需給バランスを決めるのは神ということになるので、これは技術ではなく、魔術といった方がいいかもしれません。
そう考えると国富論が出版された18世紀は魔術の世界であった需要予測が技術革新により、技術に置き換わっていったと理解すると腹に落ちます。
ディープフェイク
わたしが魔術という言葉から連想するのは、小学生のころ、教室の後ろにある図書棚でむさぼるように読んだ、江戸川乱歩の「怪人二十面相」シリーズです。その怪人(どろぼう)は老若男女を問わず変装ができ、至近距離でも変装を見破る事が出来ないほど正確です。当然ながらいまもそこまで正確な変装を実現するのは、技術的に不可能ですので、これは物語の世界だけで閉じた魔術です。
しかし、変装という魔術も徐々に技術に置き換わっていくはずです。
少なくともネットの世界では、ディープフェイクの技術が登場し、AIを使うことで動画の中の人の顔を別の人の顔に入れ替えることができるようになりました。ネットの世界に於いて「怪人二十面相」は、もはや魔術ではありません。
そしてディープフェイクは「怪人二十面相」のようなあくどいふるまいをすることで、社会問題を起こしています。
ディープフェイクの問題でよく知られているのが「印象操作」と「フェイクポルノ」です。
ディープフェイクにより、為政者などの影響力のある人物の発言を改ざんして動画で発信しています。これは多数の人にまるでその人物が発言しているかのような誤った印象を与えます。政治の世界ではディープフェイクを使って、対立する相手の信頼を失墜させるための印象操作を行う動画がつくられています。
※印象操作についてはこちらの記事も参照頂けると嬉しいです。
www.three-wise-monkeys.com
また、フェイクポルノはポルノ女優の顔に、無関係な女性の顔を入れ替えることで、あたかもその女性がアダルトビデオに出演しているかのような動画が多く作られています。
バーチャルヒューマン
バーチャルヒューマンにより、現実には存在しないリアリティのある人間を仮想空間のなかで実現する技術も進んでいます。
Sayaはよく知られたバーチャルヒューマンです。なんの前提知識もなくこの女性を見たら、実在するモデルだと勘違いをしそうです。下記の動画のようにカメラなどのIot(Internet of Things)とコラボすることで、社会生活をより豊かにしていく取り組みが行われています。
youtu.be
バーチャルヒューマンがビジネスでいちばんマッチすると思えるのは、CRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)の領域です。消費者がネットで興味をもった商品やサービスの問い合わせをチャットで行うことはいまでも行われていますが、バーチャルヒューマンを使うことで、オンライン商談として消費者と供給者が対面でやり取りができるからです。