叡智の三猿

〜森羅万象を情報セキュリティで捉える

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むかしといまの需要予測

ITエンジニアが仕事をするためにいちばん必要な能力は、当然ですが、技術力です。

技術とは、人間の生活をより幸せにするため、あるいはビジネスを効率的に進めるために、その時代が持つ最新のノウハウを使って、モノをつくったり、操作をしたり、成果を発揮手段です。ITはノウハウがとても速いスピードで進化しています。30年前といまとでは、ノウハウも大きく異なります。そもそも30年前は、インターネットの利用は一般的ではありませんでした。わたしがはじめて見たインターネットは1993年で、Netscapeのブラウザでヤフーのポータルサイトです。当時、ネットによる情報収集の主役はインターネットではなく、パソコン通信(NIFTY-Serve)でした。

NIFTY-Serveメイン画面
30年前といまのITの進化について考えます。

例として、商品の需要予測システムを取り上げます。需要予測はSCM(サプライチェーンマネジメント)を実現するための鍵となる業務です。需要予測は時系列と得意先と商品という3つの軸からデータを解析して求めます。わたしが社会人となった1990年代は、商品の需要を予測する為のデータ(変数)は、その商品の過去の販売実績しかありませんでした。代表的な予測モデルとして恒常モデル、季節モデル、傾向モデルなどの手法が知られていましたので、最も精度が高い(予測と実績の乖離が少ない)と思われる手法に変数を当てはめて、需要予測を算出していました。

モデル 予測計算
恒常モデル 一次指数平滑法
単純移動平均法
加重移動平均法
季節モデル 一次指数平滑法
傾向モデル 一次指数平滑法
二次指数平滑法

たとえば恒常モデルの計算手法のひとつである一次指数平滑法を使った予測式は以下の通りです。需要予測の計算に必要な変数は過去の販売実績だけすが、α係数(直近の重みづけを示す係数)によって近い過去実績の重みを高く、過去の予測結果を小さくしています。

  • 需要予測値=α×直近の販売実績+(1ーα)×(前回の需要予測値)

もちろん、当時から商品の需要予測に影響を与える変数は、予測対象の商品の過去実績だけでは、不足していることはわかりきっていました。たとえば、営業マンが販売店に積極的にこの商品の売り込みをかけたら、予測はプラスに影響を与えるでしょう。また、予測対象となる商品の旧モデルの在庫が過剰にあれば、旧モデルの商品は価格を下げて販売されるので、予測対象の商品の需要にマイナスの影響を与えるでしょう。

このような複数の変数に関するデータをもとに、変数間の相互作用を分析して予測をするには、多変量解析による統計手法が必要です。

多変量解析のひとつである、重回帰分析を採用した場合、以下のモデル式に変数をあてはめます。

  • Y=aX1+bX2+cX3+dX4・・・・+α
  • Yは需要予測の算出結果です。
  • X1、X2、X3、X4には、営業マンの売込回数や旧モデルの販売実績などの変数が入ります。
  • a、b、c、d、αには、定数が入ります。

この計算自体は決して難しくはないのですが、複数の変数データを収集し、それによって変動する結果の因果関係を明らかにし、そこからそれぞれの変数が結果に与えている影響度を調査するのは地道で膨大な作業工数がかかります。わたしが需要予測のモデリングの仕事をしていたとき、因果関係の調査は統計学の専門家にデータを提供し、作業依頼をしていました。その専門家はあまりの業務量の大きさに日を追うごとに、目は血走り、元気が無くなっていくのが心配で仕方ありませんでした・・・。

さらに実務では数千から数万の商品の予測を短時間でしなければ使えません。数品目程度の計算ならエクセルで処理できますが、数万の商品となると規模の大きなコンピュータ処理が必要です。

しかし、当時のコンピュータはそれほどの処理性能がありませんでした。恒常モデルのような単変量解析でも処理時間はかなりかかりました。1万の商品数で5時間くらいはバッチ処理に費やしていたと思います。ですので、より多くのデータ処理を必要とする多変量解析を需要予測に用いるのは非現実的でした。

1990年から2000年代のはじめに、大手製造業を中心に数多くのSCMプロジェクトが立ち上がったのですが、企業が本来目指すべき需要予測モデルを適用することはできませんでした。最後は販売計画担当者の経験と勘による予測値に頼ざるを得ませんでした。

しかしいまは「ビッグデータ」の言葉に象徴されるべく、人に代わってWebクローリングやスクレイピングといった技術を使って、大量のデータを24時間365日休むことなく収集し、DWH(データウエアハウス)に蓄積します。そしてAI(人工知能)により、おどろくほど速いスピードで予測処理が行われるようになりました。

ビッグデータ × AIによる需要予測は、販売計画担当者の経験と勘に頼った需要予測よりも、科学的で信頼性があります。

ITの革新により、2000年ころ、SCMを構築した多くの企業が、再びSCMを再構築するプロジェクトを立ち上げています。新たなSCMプロジェクトは、業務に関わるITの貢献度はより高くなります。人間の経験と勘による業務は排除され、DXが進むでしょう。