叡智の三猿

~森羅万象を情報セキュリティで捉える~

プレッシャー

国立大学の合格発表も間近となり、今年の受験戦線も終わりを迎えます。うちの子はまだ受験の年になっていないのですが、親族には受験生もいるので、うまくいったかどうか気になります。

今年の大学入学共通テストは、試験中に受験生が問題用紙を写して、通話アプリを通じて家庭教師に画像を送付して回答を得るという事件がありました。試験時間中の問題用紙は機密情報ですので、それが流失したということは、不正行為による情報漏えいです。
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試験の主催者にとって、試験問題の不正対策はかなり神経を使う行為だと思います。下図のように試験問題は、試験問題の策定から試験の実施に至るまで、多くの関係者が関与し、各プロセスの関係者に対して不正行為を行わないような対策が必要です。また、試験問題はコンピュータで作られ、データが保管されますが、問題は印刷され紙でも保管されます。そのため、電子媒体の安全対策と、紙に対する安全対策の両方が要求されます。

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試験問題の流れとセキュリティリスク

大学入試センターは今回の事件を契機としてより厳密な管理体制を要求されるでしょう。

もし、受験生が不正行為を行った場合、その場で受験の中止と退室を指示され、以後の受験はできなくなります。 さらに受験した大学入試センター試験の全ての科目の成績が無効になります。

大学入試センターの資料を見ると、 試験時間中に,次のものを使用すると不正行為となるようです。個人的には定規を使用すると不正行為と見なされるのは意外でした。

  • 定規(定規の機能を備えた鉛筆等を含む。),コンパス,電卓,そろばん,グラフ用紙等の補助具
  • 携帯電話,スマートフォンウェアラブル端末,電子辞書,IC レコーダー等の電子機器類

また、今回の事件で問題となったスマートフォンの使用については、以下の取り扱いをするよう注意を促しているようです。

  1. 携帯電話,スマートフォン,音楽プレーヤーなどの音の出る機器を全て机の上に出す。
  2. アラームを解除してから電源を切る。
  3. 電源を切った後、身に付けずにかばんなどにしまう。
  4. 時計のアラーム,時計,目覚まし音の設定を解除する。

こうした不正行為に対する注意喚起は、情報セキュリティでは人的対策に位置付けられます。「こういうモノを使用したら、不正行為ですよ。もし、不正を働いたらこういう処分がくだされるんですよ。」というメッセージを伝えることで、人間のモラルに訴えかけるセキュリティ対策です。

誰もが試験中に問題用紙を写して外部に流出させてはいけないことは常識として理解しているでしょう。

ただ、平時においては常識が通用しても、大学入試を目の前にするとその意識が変わるかもしれません。大学入試は人生で一度きりです。そして、志望する大学に合格するという、大変な努力を必要とする目標に向かって頑張った成果が発揮できたか否かで、その後の人生は大きく左右されます。

それは受験生にとって大きなプレッシャーになるでしょう。過度なプレッシャーが、常識としてもっているはずの倫理観を欠如させ「志望校に合格できなければ、自分はずっと不幸な人生を送ることになる」「自分が不正行為をしても、それによって他人に迷惑をかける訳じゃないから、いいだろう」という、自分勝手な解釈で不正行為を正当化する姿勢に転化するかもしれません。

不正行為の原因は受験生のモラルの低さにあることは前提なのですが、本質的な原因は合格した大学によって、あたかも人生が決まってしまうかのような錯覚に陥る受験システムの欠陥だと思います。日本の大学受験システムは、旧帝一工とか早慶上理というような国立や私立の偏差値の高い大学群から、Fランと呼ばれる偏差値の低い大学群までをグループ化し、どのグループの大学に合格したかで人間を階級付けする仕組みにしています。

そのため、階級の高い大学グループへの合格を増やすことで、生徒を集めたい塾や予備校はもちろん、高校も一体となって生徒が少しでも階級の高い大学グループに合格させるようカリキュラムを編成します。

ただ、社会人になると、出身大学の階級を意識することはあまりありません。大枠的な見方をすれば、階級の高い大学の出身者は年収が高く、そうでない大学の出身者は年収が低いという傾向はあると思いますが、年収の差は出身大学の階級よりも、むしろ職種によって決まります。

下図はマイナビ転職による「職種別モデル年収平均ランキング2021」の情報を転載したものです。 ここに記載した職種に就けば高収入が期待できるということになるのですが、必ずしもここに挙げた職種が階級の高い大学の出身者で固められているわけではありません。ですので日本が学歴社会というのは幻想だと思います。現実の社会は学歴社会ではないのに、受験システムだけが学歴社会を前提とした仕組みになっているのことに社会と学校のひずみを感じます。

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職種別モデル年収平均ランキング

いまの社会に照らし合わせた受験システムにするには、もっと職種をイメージして生徒が進路を選択できるようにする必要があると思います。

たとえば、モデル年収ナンバーワンのシステムアナリストは、アプリケーション開発のもっとも上流の工程を行う仕事です。システムアナリストは、会社の経営層や業務部門の責任者とのコミニュケーションを通じ、経営や業務の課題を洗い出します。そして課題を解決するための業務戦略やIT戦略を会社に提案します。この仕事をするには、会社経営に必要なヒト・モノ・カネ・情報の四大資産をどう活かすかを説得力のある言葉でプレゼンテーションができる能力が必要です。課題を深堀りして根本原因を探り、あるべき姿に向かって課題を解決するための戦略と施策を組み立てるロジカルシンキングのスキルが必要です。

では、システムアナリストになるには、何を専攻するのがよいのか、それを専攻できる大学はどこなのか!?

偏差値でグループ化された大学から進路を選択するのではなく、将来なりたい職種から進路を選ぶような受験システムに変えるべきだと思うのです。ただ、残念ながら学校の先生は大学の偏差値は知っていても、職種に関する知識はほとんど無いと思います。塾や予備校の先生も同様です。知らないことは教えられないので、いまの受験システムが変わることはなさそうです。