叡智の三猿

~森羅万象を情報セキュリティで捉える~

DXという触媒

経済産業省が発信した「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」では、DX推進の必要性を「2025年の崖」という強い表現を用いて解説しています。

DXレポートでは「2025年の崖」を以下のように説明しています。

多くの経営者が、将来の成長、競争力強化のために、新たなデジタル技術を活用して新たなビジネス・モデルを創出・柔軟に改変するデジタル・トランスフォーメーション(=DX)の必要性について理解しているが・・・

  • 既存システムが、事業部門ごとに構築されて、全社横断的なデータ活用ができなかったり、過剰なカスタマイズがなされているなどにより、複雑化・ブラックボックス

- 経営者がDXを望んでも、データ活用のために上記のような既存システムの問題を解決し、そのためには業務自体の見直しも求められる中(=経営改革そのもの)、現場サイドの抵抗も大きく、いかにこれを実行するかが課題となっている
→ この課題を克服できない場合、DXが実現できないのみでなく、2025年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍)の経済損失が生じる可能性(2025年の崖
「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」より

わたしはこのブログで「認知的不協和」を背景とした「炎上するプロジェクト」という記事を書きました。「2025年の崖」は「炎上するプロジェクト」を放置したまま、ただ時だけが経過したことによる経済的リスクを指摘しています。
www.three-wise-monkeys.com

「2025年の崖」がどこまで経営者の心に響き、現場との意識のギャップを克服できるのか興味があります。

DXは新たなデジタル技術の活用を促していますが、その方法論や適用するべき業務の領域を特定しているわけではありません。いわば、DXは業務とITを融合させる動機付けを与えているのですが、DXそのものが業務のIT化に関わっているわけではないのです。

このことは高校化学で学習した「触媒」によく似ていると思いました。

もう「化学」を忘れてしまった方も多いと思いますので振り返ります。

触媒は反応の前後でそれ自身は変化しないのですが、それを加えることで反応速度を変化させる物質を指します。通常は反応速度を大きくするのが触媒ですが、反応速度を小さくする触媒もあります。これを負触媒といいます。

  • H₂ + I₂ → 2HI

ヨウ化水素(HI)を生成するのに必要となるH₂ と I₂の分子は、一定以上のエネルギーをもって衝突をする必要があります。それによってH-H、I-Iの結合を切って、H-Iという具合に原子の組み換えが起きます。このとき、原子の組み換えが起きるエネルギーの高い状態を活性化状態と呼び、活性化状態にある分子の複合体を活性錯体(H₂I₂)と呼びます。そして、活性錯体1mol を形成するのに必要な最小エネルギーを活性化エネルギーと呼びます。

例として挙げたヨウ化水素を生成するのに必要となる活性化エネルギーは174kJ/molです。

しかし、ここに白金(Pt)を加えると活性化エネルギーは49kJ/molに下がります。これは、H₂ + I₂ → 2HIの反応に対して、Ptが触媒として作用していることを示します。

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触媒の有無と活性化エネルギー

DXを業務とITを結びつける触媒としてとらえると、DXの果たす役割、期待値がとても高いことが見て取れます。

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業務とITとDXの関係

しかし、DXが本当に業務とITを結びつける触媒としての役割を果たせるのか、業務とITの反応に何の影響も与えることなく、数年後に死語としてその役割を終えるのか、はたまた負触媒として業務とITの結びつきをかえって弱めてしまうのか・・・わたしはそのすべての可能性があると思っています。