叡智の三猿

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「広告の会社、作りました」を読んで

中村航さんの「広告会社りました」を読みました。中村航さんの作品を読むのは「夏休み」「100回泣くこと」「あなたがここにいて欲しい」に続く、4冊目です。いままで読んだ中村さんの小説は、エンジニア的な感性の人が登場する印象がありました。本作に登場するのはコピーライターとデザイナーです。

勤めていた広告会社が突然、倒産し無職となったデザイナーの遠山健一。安定を求めて、飛び込んだのは、フリーランスのコピーライター、天津功明の個人事務所でした。二人三脚で彼らが挑む案件は、大企業のカタログデザインのコンペ。ライバルは大手の広告代理店、伝信堂です。コンペとはいいつつも、実際は出来レース。天津&遠山に勝ち目はあるのでしょうか・・・。

不安を恐れず、仕事の、人生の、当事者になろうとする若者を描く、爽快な作品です。


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わたしは広告会社の内側に居たことはありません。ですので、広告業界の実態は知りません。

ただ、前職でSESビジネスを運営していたとき、採用広告を出していた関係で、数社の求人広告会社と話す機会がありました。本を読みながら、当時のことを懐かしく思い出しました。

前職の会社は職種別に独自の採用をしていました。IT系のお仕事は、わたしが関わっているSESエンジニアのほか、社内構築システムの運用・保守を担う、社内SEの仕事がありました。そして、社内SEは、SESエンジニアよりも10倍近くの応募者がいました。「隣の芝は青い」といいますが、わたしの隣の島は社内SEのチームでしたので「人がきて、うらやましいな~」と思いながら、眺めていました。

SESエンジニアは、プロジェクト単位で客先に常駐します。一般的に仕事がきついイメージがあります。

3、4年くらい前までIT業界は「新3K」といわれてました。従来の「3K」は「きつい」「きたない」「危険」を指していますが、これは、工場や建設業などのブルーカラーの職種で使われていました。

一方、「新3K」はIT業界のような、ホワイトカラーに使われます。3つのKが意味するのは、諸説があります。わたしのなかでは「きつい」「帰れない」「心を病む」というのが、しっくりきます。仕様変更を繰り返し、計画通りに進まず炎上するプロジェクト、毎日の長時間労働、休日出勤、次第に心を病むエンジニア・・・。SESは「新3K」のイメージとマッチしていたのです。

いまは、有給休暇の取得が義務化(2019年4月~)など、「働き方改革」伴う一連の施策のおかげで、多くの事業者でのSESエンジニアの労働環境は改善されていると思います。それでも、改革の抜け道を使ったブラックな職場は依然として存在はしているでしょう。

契約した広告会社のライターからのインタビューを受けたあと、彼はこのように言いました。

会社説明会のとき、どういう事業にしたいか、どんな人に来て欲しいか、この会社に入ったらどんな未来になるかを是非、語って欲しいです。可能ならわたしも説明会に参加させて頂きたいです。

その言葉を聞いたとき、わたしはびっくりしました。なぜなら、わたしの知っている「広告会社」のライターは、「予算枠のなかで、インタビューをして、言葉を体裁よくまとめ、職場の雰囲気を写真に収めて、レイアウトにあてはめる。」のが、仕事だと思っていたからです。

わたしが想像した以上の言葉を投げかけてくれたのは嬉しかったです。「求人広告を出しても、どうせ応募なんかないだろう。」と、半ば諦めていたので、勇気を頂きました。こういう人と一緒に仕事をしたいと思いました。

どんな仕事も会社がどうかというより、人がどうかだと思います。