受験生にとって2月は勝負の月です。ひんやりと乾燥した空気がただようこの時期は、風邪やインフルエンザが流行るため体調管理にも注意をしなければなりません。受験生だけでなく保護者も大変な苦労があります。
そして学習塾にとって、2月は教え子たちの成果を見守る時期です。合格実績は来期の入塾希望者に大きく影響します。塾の関係者は固唾をのんで合格発表を待っているでしょう。
わたしが住む神奈川県は県内に湘南高校と横浜翠嵐高校という学力を重視した県立高校の両雄が並び立ちます。
そして両雄への進学実績の数を県内の学習塾が争っています。
2020年の県内の進学塾の両雄への合格実績は以下の通りでした。県内中学生の優秀層の多くは、STEP、臨海セミナー、湘南ゼミナールのいずれかに通っていることが分ります。
STEP | 臨海セミナー | 湘南ゼミナール | |
---|---|---|---|
湘南高校 | 211名 |
46名 |
50名 |
横浜翠嵐高校 | 137名 |
117名 |
88名 |
※合格者数は各塾のホームページを確認して転記してますが、ミスがあるかもしれません。
わたしの感覚では、STEPがここまで横浜翠嵐高校への合格実績を出すとは思っていませんでした。元々、藤沢を拠点とするSTEPは湘南を重視しています。一方、横浜を拠点とする臨海セミナーと湘南ゼミナールが横浜翠嵐を重視しています。
STEPが横浜翠嵐への実績を伸ばしたのは、最近の成果だと思います。
これらの塾は限定された生徒を奪う激しい競争をしています。それを彷彿させる出来事が昨年ありました。
臨海セミナーを運営する臨海に対して、昨年の12月にSTEPを幹事会社とする同業19社が業務改善を求める申入書を送付したのです。
- 塾生から学校の友人の中での成績優秀者の名前・塾名・志望校などの個人情報を聞き出し、リスト化。塾生を通じて、模試や講習などの申し込みを促すと塾生は金券がもらえる。
- 入試直前に、他塾に通う生徒の籍を変えずに『特待生』(難関校の受験、結果の報告、広告掲載などを条件に、授業料が一定額免除される制度)として勧誘し、自塾の合格実績だけ増やそうとしている。
~Business Journal-臨海セミナー、強引勧誘に生徒を利用し金券類…学習塾業界、崩れる「合格実績」の信憑性より
この記事は少子化の進む中で、各学習塾がレッドオーシャンで戦っていることを強く印象づけました。
わたしはSTEPの実態も臨海の実態も知らないので、STEPが臨海に求めた業務改善が正当なものかどうかは分かりません。
ただ、両塾の合格実績を見ると、経営戦略の違いを感じ取ることが出来ます。
わたしは、そこに興味を持ちました。
その戦略の違いは早慶への2020年の合格実績の差で分かります。
STEP | 臨海セミナー | |
---|---|---|
早大学院 | 16名 |
66名 |
早大本庄 | 12名 |
79名 |
早稲田実業 | 10名 |
37名 |
慶応義塾 | 43名 |
71名 |
慶応女子 | 5名 |
4名 |
慶応志木 | 24名 |
25名 |
早慶でみると、STEPより臨海セミナーの方が実績を出していることが分ります。
STEPは県内の進学校への合格に力を入れているのに対して、臨海セミナーは県内の進学校と共に早慶の二兎を追っていることが分ります。
この戦略の違いが、国立高校である東京学芸大学付属の合格実績の差に表れています。
STEP | 臨海セミナー | |
---|---|---|
東京学芸大附属 | 113名 |
33名 |
2020年の東京学芸大附属の入試日は、慶応義塾の二次試験の実施日とバッティングしていました。受験生はどちらかを選択しなくてはいけませんでした。
おそらくSTEPは東京学芸大附属の受験を促し、臨海セミナーは慶応義塾の受験を促していると思います。
臨海セミナーの二兎を追う戦略は、生徒の勉強意欲が非常に高くなければ、一兎をも得ない危険を感じます。県立の進学校と国立である東京学芸大附属の合格に向けた勉強法は似ていると思います。しかし、早慶は英数国の難問が解けなければ、合格が難しいと思うからです。
STEPは神奈川県のみに塾を展開していますが、臨海セミナーは神奈川県をメインとしながらも、東京、千葉、埼玉、大阪にも展開しています。そのため、STEPは神奈川県に住む保護者が期待する合格実績をアピールしたいのに対して、臨海セミナーは全国の保護者が期待する合格実績を出したいと考えているのでしょう。
もともとSTEPは湘南高校への合格実績を重視していましたが、臨海セミナーが全国に塾を展開するなか、早慶を重視していく様子を見ながら、横浜翠嵐高校の実績を伸ばしたのだと思います。
ところで、学習塾の合格実績はどこまで正確なのでしょうか。合格実績を不正に改ざんすることはないのでしょうか!?
「全国学習塾協会」の合格者数算定の基準は「受験直前の6か月のうち、継続的に3か月以上在籍し、かつ受講時間数が30時間を超える」こととされています。ただ、この基準を守らなければ、罰則があるわけではなさそうです。
情報セキュリティの視点でみると、データの完全性(正確な状態を維持する特性)は重視して欲しいです。ですので、たとえば塾に対する「第三者認証」のような制度を設け、算定基準を満たして合格者を出しているかを監査する仕組みがあるといいなと思います。第三者認証による評価がされているかは、保護者が塾を選択する際のひとつの基準となるでしょう。
ちなみに、ドロ沼になると思われた、STEP vs 臨海セミナーは、両社の共同声明というカタチで、急速に和解を果たしました。
入試直前の塾同士の抗争に嫌気を感じた保護者や生徒も多かったと思います。
結局、この抗争で漁夫の利を得たのは、関与していない湘南ゼミナールでしょうか??2020年の合格実績では、STEP や 臨海セミナー に差をつけられた印象がありますが、今年の実績はどうなのでしょうか。
ただ、保護者と生徒にとっていちばん大切なのは、塾の表面的な合格実績数を追うだけでなく、体験入塾や口コミ、先生の言葉から、塾の特性を判断し、生徒に合った塾を見出していくことだと思います。
子どもが塾で過ごす時間は、想像以上に長く、それは将来の生き方にも影響を与えるほど重要で濃密な時間です。