叡智の三猿

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ホワイトカラーの生産性

ホワイトカラーの生産性

以前、ある大手製造業の「社内イントラネット構築プロジェクト」に、PMO(Project Management Office)として携わりました。

プロジェクトリーダー(PL)は、古い会社の体質を改革すべく意気込んでいました。リーダーは、IPAの「ITストラテジスト試験」に合格してます。会社トップ層から要望を受け、戦略的な情報システムの計画立案と、実行を主導する役割を期待されてました。

リーダーはホワイトカラーの能力を最大限に活かし、生産性を向上させる仕組みを考えました。

ホワイトカラーは「白いワイシャツとスーツを着て仕事をする人々」という意味です。頭脳労働者や事務職をさします。ちなみにブルーカラーは「会社から支給された作業着を着て仕事をする人々」という意味で、製造業でいえば生産業務に携わる人をさします。

ブルーカラーの仕事である製造現場は、生産性向上を常に実行しています。原価を1円でも低減すべく、部品調達や製造工程の仕組みを改善しています。

一方でホワイトカラーの仕事は生産性を向上させる意識が欠如しています。

あるホワイトカラーの1日

毎朝、出社して机に座りパソコンを立ち上げ、今日の予定を確認し、メールをチェック。会議の資料作成、上司への報告のための資料作成、資料の印刷とコピー、会議に出席、会議での指摘事項を資料に反映、仕事の合間合間に来るメールをチェックして対応。
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気がつくと、あれ!?もう20時か・・・残業したが、事前申請はしていないな・・・。もう、そろそろ帰ろうかな・・・。

この会社にはそれなりにいい大学を卒業した人が入社します。しかし、会社の業績はいまいちです。会社が生産してる製品の品質は悪くありません。ただ、その良さを上手く市場にアピールできてないことが課題だと、経営層は認識していました。

リーダーはこの課題を解決するには、頭脳労働者(ホワイトカラー)が、会社にあるこの3つの壁を取り払い、コミュニケーション革命をおこすことが重要だと提案しました。

1️⃣ 時間の壁

会社は多くの会議が設定されています。社員はあちこちに出張しています。事務処理に追われ残業が常態化しています。社員同士がコミュニケーションをはかる上で、時間的な制約が壁となります。

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2️⃣ 部門の壁

業務分掌により各部門で果たす責任と権限を明確に定められています。部門での仕事は責任をもってしっかりと行うものの、業務分掌に縛られ過ぎて、部門の垣根を超えたコミュニケーションが生まれにくいことが壁です。

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3️⃣ 職制の壁

社員の職制に応じ、職務に求められる役割が明確に定められています。これにより、内部統制が適正に運営されるものの、上司から指示がなければ、部下が動かない硬直化した組織運営になるという壁があります。

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プロジェクトのキックオフ

リーダーは、この会社の社員ひとりひとりが、もっと大きな視点で会社のことを考え、会社のために何が出来るかを提案していく雰囲気づくりが必要と考えました。

そのためには、ホワイトカラーをつなぐイントラネットの仕組みを作り、そこで各部門が行なっている仕事の情報を交換し、社員同士のコミュニケーションを深めることが必要と考えたのです。

「社内イントラネット構築プロジェクト」は各部門から、部門長と部門長の推薦による推進者の2名が出され、総勢15部門30人のメンバーと、リーダーとPMO(わたし)で、キックオフをしました。

このプロジェクトの最大の懸念は、各部門がどれだけ、自分の仕事を他の部門に伝える意思があるのかが分からないことでした。

その懸念は現実となりました。

部門のなかでも、他部門との情報連携が多い、総務部や広報部はプロジェクトに協力的でした。

反対に研究開発部門は、他部門への情報提供に強く抵抗しました。研究開発の部門長はこのように発言しました。

研究開発部門は非常に機密性の高い情報を扱っている。いくら同じ会社といえども、機密情報を安易にイントラネットに投稿することは許可出来ない。そもそも、研究開発部門は共用LANとの接続は行なっていない。この方針を当部門として変えることはない。

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リーダーは「セキュリティの確保を理由に情報の公開をしないというのは、本末転倒だ。」といいました。さらに「研究開発こそ情報を公開しないといけない。他の部門から見て、いちばん見えないのが研究開発部門だ。情報を公開することで、その存在をもっと社員に理解して貰えると思う。」と、説得を試みました。しかし、研究開発部門からの協力を得ることは出来ませんでした。

プロジェクトの振り返り

後日、わたしは研究開発部門から選出された推進者とふたりで酒を飲みながら、そのときを振り返りました。

やっぱり、研究開発部門は硬いですよね〜

うん、そうだね。機密情報がイントラネットに掲載されたら、外部に流出する脅威が高まるからね。部門長の判断は間違っていないと思うよ。

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リスク分析の手順

なんか、いい手はなかったんですかね。白か黒かという結論ではなく、グレーにして対応するような。

それはあったと思うよ。僕がキックオフでびっくりしたのは「えーこんな、重要な話し、根回しをしないで、いきなり会議で披露するんだ!」ということだよ。

根回しですか!?

うん、根回しだよ。会議の場でいままでの仕事の仕方を否定するようなことを言われたら、ウチの部門長も黙って聞くはずないよ。断固として拒否だよね。引くに引けない状況だよね。

根回し・・・仕事をうまくやっていくには、根回しこそが重要なのかと、酒の酔いも覚めてしまう夜だったのでした。