叡智の三猿

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PSIによる全体最適化(前半)

「ザ・ゴール」の衝撃

2001に出版された「ザ・ゴール」は、生産管理の工程上のボトルネックを見つけ、全体の中の一部を最適化すべきという「全体最適」の理論を提示しました。

1990年代、わたしは生産管理パッケージ(IBMのPACKシリーズ)導入の仕事をしていたのですが、「ザ・ゴール」で提示される生産管理の思考プロセスは、その一歩も二歩も先を行っているように感じました。

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そして「ザ・ゴール」に合わせるかの如く、サプライチェーンマネジメント(SCM)の導入が製造業でブームとなりました。i2テクノロジーズの「RGYTHM」は、その牽引役のパッケージとして注目されました。

残念ながら2000年代のはじめは、コンピュータの処理性能がいまと比べて劣っていました。SCMの設計思想は良くても、データ処理に必要となる大量の製品、仕掛品、部材の必要量を短時間で計算することは困難でした。

この時代、たくさんのSCM導入プロジェクトが生まれました。しかし、その導入のほとどは限定的なものに留まっているはずです。

PSI計画とは

SCMは需要変動に迅速に対応しながら、在庫の適正化と販売機会の損失を防ぐマネジメントシステムです。SCMを実現するには、生産(調達)・販売(供給)・物流・在庫の情報連携が必要不可欠です。それを解決する手段として、PSI計画(生販在計画)という考え方があります。

PSIは次の頭文字からとっています。

PSIとは
:生産(Production)外部購入品の場合は購買(Purchase)
:販売(Sales)在庫移動の場合は供給(Supply)
:在庫(Inventory)
PSIはモノの移動を汎用的に表現しているので、製造現場ではもちろんのこと、物流倉庫や営業所でも転用して使うことが出来ます。

生産制約と過剰在庫の発生

PSI計画を使った適正な在庫配分の取り組み例を書きます。

たとえば長野県で生産を行なっているある商品(見込み生産方式)は、関東エリアでは東京にある直営の販売会社が販売を行い、東日本エリアは宮城にある販売代理店、西日本エリアでは大阪にある販売代理店が商品の販売をしています。この場合、モノの流れは次のように表現できます(これをマテリアルフローと呼びます)。

マテリアルフロー

マテリアルフローをベースに生産初期のPSI計画を策定します。ここで直営の販売会社は販売・在庫・購買情報を入手出来ますが、販売代理店は、機密情報の観点から購買情報のみ入手することが出来ます。

初期のPSI計画

図の例では、直営、東日本、西日本からの購買の要求情報(P)は全て150個としています。ですので、製造会社の販売・供給情報(S)は450個です。そこに在庫(I)を150個加味するとします。そうすると、初期の生産計画(S)は600個となります。

しかし、ここで問題が発生しました。部材の供給が生産に追いつかず、600個の生産が出来なくなりました。工場ではどんなに頑張っても150個しか生産が出来ない状況です。生産制約の発生により、直営、東日本、西日本の購買要求に応えることが出来なくなりました。

そこで、製造会社のデプロイ担当者は、各社に公平なよう、それぞれの会社の購買情報に比例するべく供給量の配分を行うこととしました(これをフェアシェア分配と呼びます)。今回、各社とも150個づつの購買情報を出していることから、配分比率は1:1:1です。

そのため、次のような配分計画を策定しました。

生産制約による配分計画

こうして初期生産の問題を乗り越え、やがてこの商品の生産が安定し、各社の購買要求の情報に応えられるようになりました。

そして、商品も終売を迎えました。

しかし、ここで、憂慮するべきことが発生しました。

東日本エリアのみ、この商品の在庫が過剰になったのです。

原因は、東日本および西日本は販売代理店を経由して販売をしていることから、機密情報を理由として、販売代理店の販売情報、在庫情報がブラックボックス化していたことです。

製造会社のデプロイ担当者は各社に公平なよう、供給量の配分を行なっていたつもりでしたが、本当に適正な配分をするのに必要な情報が不足していたのです。

このため、直営エリアおよび西日本エリアでは、在庫が欠品気味となりました。消費者に対して適切な販売が出来ませんでした。一方で東日本エリアでは在庫がダボつく結果となったのです。

ブラックボックス化による過剰在庫

この課題を解決するため、デプロイ担当者は、配分業務の制約条件である、販売代理店の販売情報、在庫情報を製造会社が入手することをを考えました。制約条件を解放し、より適切な在庫配分を行うよう取り組む判断をしました。